あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|きくちちきさん『テオのりんご』

一生懸命やっても、うまくいかないこともあるよね。でも、きっと友だちが助けてくれる。9月の新刊『テオのりんご』は、そんな優しいメッセージが込められている作品です。きたむらえりさんのこのお話の絵を担当されたきくちちきさんは、物語の途中、いろいろな友だちと出会い、泣いたり笑ったりする主人公の「テオ」と息子さんを重ねて、何度も何度も描きながら絵を探っていったそうです。

わあ〜んと大泣きするテオと息子

きくちちき

絵本作家になり1年後くらいに息子が生まれました。そのとき、知人からお祝いに、きたむらえりさん作の「こぐまのたろの絵本」3冊セットをいただきました。息子が少し大きくなり一緒に読むと、すぐに息子もぼくもはまり、何度も読む大好きな絵本になりました。しばらく「たろ」を楽しむ日々が続いたあるとき、編集者さんから絵の依頼を受けたのが『テオのりんご』でした。

『こぐまのたろ』の作者さんとご一緒できる! と飛び上がるくらい嬉しかったです。すぐに原稿を読ませていただくと、素晴らしい物語で心があたたかくなりました。ちょうど息子と同じくらいの年の子グマのお話でとても共感でき、えりさんもお孫さんのために書いたお話だというのを伺ったので、えりさんのお孫さんへの思いやぼくの息子への思いを作品に重ねたうえで、どんな「テオ」が描けるか楽しみでした。

息子もぼくもえりさんの絵本が好きだったので、ぼくが絵を描いてうまく表現できるのか、かなりプレッシャーでした。ただ描いていくとあっという間に物語にのめり込み「テオ」がどんどん息子に見えて描くのが楽しくなり、プレッシャーも忘れ夢中で何枚も描き直していました。シンプルな表紙絵も、その1枚を描くのに気づけば  100枚以上描いていました。

『テオのりんご』では子どもの純粋さや表情を描くのが、とにかく難しかったです。そのなかで特に思い入れの強い絵が「わあ〜ん」と大泣きする場面です。この絵は完全に「テオ」と息子が重なった表現になりました。その頃の息子はなにか失敗したり、ボードゲームで負けたり、小さなきっかけでも大粒の涙を流し大きな声をあげて「わあ〜ん」と泣く子でした。その姿が本当に愛らしく、感情をそんな風に爆発できて素晴らしいなと思っていました。   

特にボードゲームではよく負けて大泣きするので可哀想になり、ぼくも妻もなるべく勝たないように忖度ボードゲームになっていました。よくないなと思いながらも、つい可愛くて負けてあげたかったのですが、不思議と息子は勝ちたいと思えば思うほど勝てず、こちらは負けたいと思えば思うほど勝ってしまい、誰が楽しいのか分からない、困ったゲームになっていました。

またある程度大きくなってからもぽろぽろ泣くので「友達と遊ぶときも泣くの?」と聞いたことがあります。友達同士では泣かないと言うので、感情をコントロールできるようになったんだと成長を感じましたが、親子で遊べば、ぽろぽろするしズルして勝とうとするので「ズルしても勝ちたいの? ズルしても楽しいの?」とも聞いてみました。すると純粋な「テオ」の表紙顔で「勝ちたい! 楽しい!」と言い放つんです。子どもはなんて可愛いんだろう、息子がいつまでも「テオ」に見え、イタイ親バカさをまた実感するんです。

うちの「テオ」はいつからか、ズルくなってしまいましたが、絵本の「テオ」はズルくなくとても純粋ないい子です。応援したくなったり、喜びを分かち合いたくなる物語ですので、ぜひみなさんにも楽しんでいただけたら嬉しいです。


きくちちき●1975年、北海道生まれ。2013年ブラチスラバ世界絵本原画展にて『しろねこくろねこ』(Gakken)により金のりんご賞を受賞。2019年『もみじのてがみ』(小峰書店)により同展金牌、2020年『しろとくろ』(講談社)により産経児童出版文化賞フジテレビ賞、2025年第3回やなせたかし文化賞を受賞。絵本に『おひさま わらった』(JULA出版局)、『やまをとぶ』(岩波書店)、『いち にの さん』(えほんやるすばんばんするかいしゃ)、『ちょうちょちょうちょ』(偕成社)など多数。 神奈川県在住。

2026.09.01

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