えほんとこどもとわたし

第7回 おやすみ絵本のいまむかし

寝る時間になったら寝ないといけないなんて、大人ってなんて理不尽なんだと、子どもの頃は思っていました。時が経ち、子どもには寝る時間には寝てほしいと願う、しっかり理不尽な大人になりました。古今東西、寝る前の親子の攻防が、こんなにも豊かな「おやすみ絵本」を生んできたのかと思うと、悪いことばかりでもありません。

幼稚園の頃、私がいちばん読んだ「おやすみ絵本」は、『おやすみなさい フランシス』だったと思います。「もう ねるじかん」と親から言われても、寝たくないフランシスは、あれこれ言い訳を考えます。「あたし、ミルクが ほしい」「おへやまで つれてって」「くまちゃんと いっしょに ねる」「おやすみなさいのキス してくれた?」……おやすみ前の儀式を終え、ベッドに入って目をつむっても、やっぱり眠くなりません。そこで自作の「あいうえおの うた」を歌っているうちに、今度は部屋にトラがいるような気がしてきて……。

屁理屈とでまかせ歌が得意で、妄想力たくましく意地っ張り――自分みたいなアナグマの女の子に、私は共感せずにはいられませんでした。同じシリーズの『ジャムつきパンとフランシス』と『フランシスのいえで』(ともに好学社)も好きで、小学校低学年くらいまでフランシスみたいに、台所のテーブル下への家出を繰り返していました。ただ、この2冊はリリアン・ホーバンの絵。『おやすみなさい フランシス』だけが『大草原の小さな家』や『しろいうさぎとくろいうさぎ』(ともに福音館書店)で知られるガース・ウイリアムズの絵で、ひと味ちがいます。やわらかな毛並みの質感やあどけない表情が格別な存在感でした。

フランシスの両親は、懐の深いアナグマです。娘のわがままをおおらかにゆとりをもって受けとめながら、いけないことはきっぱりダメと言う。ブレない態度。親になった私から見ると、共感というより理想の親像に思えました。

うちの娘は目の堅い子でした。寝る前に絵本を読んでいると、私のほうが先に寝落ちしてしまうので、短めの絵本を選んでいました。『おやすみなさい コッコさん』は、よく読みました。「愛情は表現の重要な要素のひとつ」と言われていた片山健さんの、いとしみのこもった水彩で、眠気が少しずつ子どもを包んでくれます。イライラしていた自分も、やさしいまなざしとまどろみを共有できて救われるのでした。

今の私のお気に入りは、『ねられん ねられん かぼちゃのこ』の眠れない「かぼちゃのこ」と、それを空から遠目に寝かしつける「おつきさん」の関係。「ねられん ねられん あたまに かえるさんが のってては ねられん ねられん」などと、とりとめなく駄々をこねる子を、ほどほどに相手しながら「かぼちゃのこの すきにしなさーい」と言い放つ距離感。やれやれと思いつつ、のんきに構えていたら、そのうち勝手に寝るんですからね。

締めの一冊は、『ぐりとぐら』でおなじみの姉妹コンビによる『おやすみ』が鉄板。2匹の子犬が、寝る前に面白くておいしくてうれしいこと全部して、「あしたは なにして あそぼうか」と眠りにつく、平和で幸せな赤ちゃん絵本です。どの国の子もみんな、こんなふうに明日を楽しみに眠れたら……と願います。

●紹介した本
『おやすみなさい フランシス』ラッセル・ホーバン 文/ガース・ウイリアムズ 絵/まつおか きょうこ 訳
『おやすみなさい コッコさん』片山 健 さく・え
『ねられん ねられん かぼちゃのこ』やぎゅう げんいちろう さく(以上、福音館書店)
『おやすみ』中川李枝子 さく/山脇百合子 え(グランまま社)

●プロフィール
広松由希子(ひろまつ ゆきこ)
編集者、赤ちゃん文庫主宰、ちひろ美術館学芸部長などを経て、現在フリーで絵本の文、評論、翻訳、展示企画などを手がける。国内外の絵本コンペの審査員を歴任。著書に『日本の絵本 100年100人100冊』(玉川大学出版部)、絵本の文に『かえりみち とっとこ』(岩崎書店)など。

2026.09.01

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