今月の新刊エッセイ|福音館書店編集部『絵本がはじまる 松居直・ともにあそびに』

10月の新刊『絵本がはじまる 松居直・ともにあそびに』は、編集者・松居直がどのようにして編集者となり、数々の絵本を世に送り出すことになったのかを、出会った人々の言葉や松居自身の言葉とともにたどる一冊です。『ぐりとぐら』『おおきなかぶ』など、いまも読み継がれる絵本が生まれた背景と、そこに込められた松居の思いを、編著・福音館書店編集部につづってもらいました。
「あたりまえ」じゃ なかった!?
福音館書店編集部
「あのね」読者の皆様、こんにちは。2026年10月5日刊行予定の単行本『絵本がはじまる 松居直・ともにあそびに』の編集をしている、福音館書店編集部の者です。以下、私と称します。よろしくお願いします。
さて、日々絵本を子どもさんと共に楽しんでくださっている方も多いのではないでしょうか(ありがとうございます!)。中には、『ぐりとぐら』や『おおきなかぶ』といった作品を、自分自身が子どもの頃に読んでもらったことがある、そんな思い出をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。ところで、そうした絵本を手に持ったとき、本の「形」について何か、変だな、と思った方はいらっしゃいますか。『ぐりとぐら』や『おおきなかぶ』は「ヨコ長」の形をしています。そして、中の文字も「ヨコ書き」です。私は1970年代後半生まれなのですが、正直、幼い頃から一度も違和感を覚えたことがありません。絵本というのは、こういうもの、昔からずっとこうなんだろう、と思っていました。
ところが、です。ヨコ長、ヨコ書きの日本語の絵本は、そんなに昔からあるわけではなかったのです。日本の商業出版としておそらく初めてのヨコ長、ヨコ書きの絵本の一つが『100まんびきのねこ』(ワンダ・ガアグ 文・絵、いしいももこ 訳)。この絵本が刊行されたのは1961年のことでした。そして……その出版社には当時の書店や図書館、学校などから次々とお叱りの声が届いたそうです。ヨコ長だから店頭の本棚に入らない。教科書がタテ書きなのになぜヨコ書きにするのかけしからん。なんだか……現在からすると信じられないような気もする話ですが、実際の出来事です。
さて、そのヨコ長、ヨコ書きの絵本を出版した 張本人 が、編集者、松居直(1926~2022)です。今年、2026年は、松居の生誕百年の年(ちなみに10月5日が誕生日です)。その記念として、今、私は『絵本がはじまる 松居直・ともにあそびに』という本の準備をしております。日本初のヨコ長、ヨコ書きの本を出した松居はそのあと、自分が1956年に創刊した月刊絵本「こどものとも」の形もヨコ長にします。そして、さらに怒られます。でも、読者の皆様にはむしろ好評で、やがて、『ぐりとぐら』や『おおきなかぶ』など、累計百万部を超える作品も生まれていくのでした。
ちなみに、松居は、絵本作りをはじめるほんの数年前まで、子どもの本はもちろん、出版にかかわる仕事につくとも思っていませんでした。故郷の京都にある大学で学んでいたのは政治学です。そんな松居が、ひょんなことから、それも大学卒業前に働き始めることになったのが石川県金沢市にあった小さな町の本屋、福音館書店の出版部門でした(なぜ?)。社内で専任編集者は松居ただひとり。本の作り方もさっぱりわかりません。いったいどうしたらいいの。そんな松居が、やがて東京に行き(どうして東京に?)、心強い「友」と出会い(それはどなた?)、絵本作りの道を進みはじめる姿を『絵本がはじまる』では描きます。松居たちがめざすのは「わかりやすくて、おもしろい本」。これまた、「あたりまえ」のように感じますが……なかなかに険しい道のりが松居と「友」たちを待ち受けているのです。本書を読んでいただけたら、日々の絵本をめくる時間が、きっと、もっと、おもしろくなるのでは、と思っております。ぜひお手にとってご覧いただけたら幸いです。
松居直(まついただし)1926〜2022
京都府生まれ。編集者。児童文学者。雑誌「母の友」や月刊絵本「こどものとも」を創刊。『ぐりとぐら』や『おおきなかぶ』など多くの絵本を世に送り出した。絵本を広めるため、日本の全都道府県、そして世界各地で講演を行った。
2026.09.25







