みんないつも変身してる
坂井治
とある仕事で「狩猟」について調べていたら、獣に狙いを定めながら「猟師自身がその獣になっていく」という言葉に出会いました。その後、狩猟の見学をする機会があり、猟師の先生がおっしゃっていたことが、またとても面白かったのです。
例えば、目の前に猫がいて、その猫を撫でたくて、様子をうかがいながら猫に近づいていく。自分は味方だよ、おーよしよし。と、ちょっと身をかがめたり、足の運びをゆっくりにしたりして。その時、その人は、猫に好かれようと、猫が怖がらないように、自分が猫になったような言葉遣いや息遣いをして、だんだん猫に「変身」をしている。というような話でした。
赤ちゃんを相手にする時にも、大人が急に赤ちゃん言葉になったり、表情を和らげたりします。その時も、大人がだんだん赤ちゃんに変身しているのです。花の写真を撮る時に、その花を一番きれいに撮ろうとすると、アングルを変えたり、寄ったり引いたり、そして、今だ! とシャッターを押す時には、その花と一緒に風を感じて、光を感じて、まるで花に変身したかのような気持ちになっているのです。
どうやら「変身」は、何もスーパーヒーローのような特別な能力がなくとも、誰もが無意識にしていることのようです。良いコミュニケーションをとろうとすることが、その相手に変身することなんだと思うと、とても楽しくなります。親子が良いコミュニケーションをとっている時も、子どもは親になろうとして、親は子どもになろうとしている。そう想像するだけでも面白いです。
この絵本の男の子が変身していくさまを楽しんだら、今度は男の子がどんなところで猫やタコと出会って変身しているのかを考えるのも、また面白いかもしれません。