クリーニングステーションについて
大村文乃
本誌は石垣島のクリーニングステーションを舞台にしています。クリーニングステーションとは、生物が他の生物によって体を掃除してもらう場所です。掃除する側をクリーナー、される側をクライアントと呼びます。クリーナーはクライアントの体表や口の中や鰓穴の中から、寄生虫や死んだ皮膚などを食べます。
ホンソメワケベラは、房総半島からインド洋、中部太平洋に分布する小型のベラです。掃除を行うので他の魚に食べられにくいと考えられています。例えば登場したバラハタは肉食ですが、ホンソメワケベラは食べられずに掃除しています。ホンソメワケベラの体の模様が、クリーナーとしての目印になるようです。
しかし、サービスを提供する働き者がいれば、当然そうではない者も存在するのがこの世の摂理。本誌には登場しませんが、ホンソメワケベラに便乗して利益を得る、ニセクロスジギンポという魚が存在します。掃除をしないのに、姿はホンソメワケベラとそっくりです。ホンソメワケベラが肉食魚に食べられにくいことを利用して捕食を免れ、掃除を目当てに間違えて接近してきた魚のヒレをかじり取ってしまうのです。このニセクロスジギンポのせいでクライアントが減ってしまうことも!……世知辛いですね。
ホンソメワケベラはクリーニングステーションの担い手なので、サンゴ礁生態系に大切な役割を果たしています。その実際のサンゴ礁の様子を伝えるために、石垣島のクリーニングステーションで潜水して生態調査を行いました。
背景には実際に生息していた生物達を登場させています。アオウミガメ(9、11、13ページ)をはじめとし、口が伸びるギチベラ(9、11、13ページ)、派手なヤシャベラ(16ページ)、サンゴや岩の上にはイシガキカエルウオ(13ページ下)やメガネゴンベ(19ページ右下)、岩の隙間にはシラナミガイ(14ページ)もいます。波がやや強い環境のため、サンゴは波に耐えうるソフトコーラルや平たいテーブルサンゴが多く登場します。
また、自然界では尾が切れていたり、サメにヒレを食いちぎられたりしたマンタが多いのですが、本誌ではクリーニングステーションに訪れるマンタのうち、傷が少ない個体を選んで描きました。本誌に登場するのは、地元ではウサギちゃんの呼び名で親しまれているメスです(腹面の模様がそれぞれ異なり、この模様で個体を識別します)。
さらにそれぞれの絵に命が宿るよう、細部についてはロンドンと国内の自然史博物館の魚類標本を調査して一筆一筆描きました。
ホンソメワケベラの奮闘ぶりとサンゴ礁生態系の豊かさをお楽しみいただけたら幸いです。