福音館書店

おつきさまと さんぽ

ちいさなかがくのとも|2025年10月号

私が歩くと、おつきさまもついてきてくれました。そうだ、おつきさまと一緒にお散歩しちゃおう! ほらほら、おつきさま、こっちだよ。「月が自分についてくる」という錯覚を活かして、主人公の女の子は町や公園のいたるところにおつきさまを連れていきます。おつきさまを自分のおうちまで連れて帰ることができるでしょうか。

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作者のことば

月といっしょに
八百板洋子

私は東北の山あいの小さな町に育ちました。晴れた日には、遠く吾妻・安達太良連峰が見えました。高村光太郎の『智恵子抄』に有名な山です。

私の小さい頃は、町に街灯など一つもなく、夜は真っ暗の深い闇となってしまいます。でも夕方、大きな月が山からのぼってくると、あたり一面を徐々に照らし出し、道も桑畑もきらきらと輝き、幻想的な美しさです。

ある夜、幼い私は祖母に手を引かれ、近所の友達の家を訪ねました。祖母はお茶の葉を持って、その友達の農家へ行き、白菜やじゃがいもや卵などと交換してもらうのです。祖母には静岡に親戚があり、お茶の栽培をしていたので、毎年いくらか送ってくれたのです。帰り道は、月だけがこうこうと照り輝いています。私はこわくなり、祖母の止めるのも聞かず、どんどん早足になりました。夜空を見上げると、月が私をずんずん追いかけてくるではありませんか。

私が歩くと月もゆっくり動き、止まると月も止まり、走るとどんどん追いかけてくるような感じがして、こわくなりました。でも、しばらくすると、まるで月と一緒に散歩している気がして、とっても楽しくなりました。月と友達になったのです。

二十代のとき、留学中のブルガリア、ソフィア大学の寄宿舎の窓から毎夜、月を眺めては、幼い頃の月のことを思い出していました。その頃にはもう、月がこわいという感覚はなく、亡くなったという知らせを受けた祖母との日々を、懐かしく偲ぶものとなったのです。

基本情報

カテゴリ
月刊誌
ページ数
24ページ
サイズ
20×23cm
初版年月日
2025年10月01日
ISBN
テーマ

みんなの感想(3件)

秋らしいプログラムの中の1冊として図書室のお話し会で読んでみました。冒頭から子どもたちはやわらかい青色の夜道に誘われるようにすーっとお話しの世界に入っていきました。どのページもくいいるように見ていましたが、おつきさまがジャングルジムの中にはいった時です。5歳ぐらいの男の子が2人、ぐぐっと前にでてじっとみつめるのです。ゆっくりページをめくりこんどはすべりだい。そこまでみとどけると、また後に下がっていきました。読み終わったらすぐに、先程の男の子の1人が「ぼくにも、おつきさまついてきたことあるんだよ。こんどジャングルジムにも行ってみる」と嬉しそうに話してくれました。まさに絵本と実体験が重なった瞬間でした。読ませてもらった私まで嬉しくなりました。

定時で上がれなくて、残業せざるを得なくて、必死で家に向かって歩いているとき、視線を感じて、顔を向けるとそこにお月様。「あ。お月様」そういう経験がわたしには何度もあります。なんでしょう。目があるわけでもないのに、視線を感じるっていうのは。お月様が見てくれている。必死に帰るわたしを見てくれている。それは、焦りよりもむしろ、勇気づけにより近かったように思い出します。そんなことを思い出した絵本です。 青いんだけど、濃い青。でも、月の明かり。明るいけど、暗い。そんな色が、いい。月がついてくる。月を連れて歩く。その感覚が、すごくいいなあ。子どもたちと共有したいなあ。そう思って購入しました。小学2年生の朝の読み聞かせで初めて読んでみました。ワイワイ言いながら楽しんでくれたようです。いつもじゃなくていいんだけど、俯いていた人が、ふと上を見上げたとき、お月様が、誰かを見守ってくれる存在であったらいいな。

八百板洋子さんの優しくて美しい日本語と、深い藍色の繊細な木版画に導かれながら、童心に返ってお月様との散歩を楽しませていただきました。文章にそっと寄り添うように描かれた木版画の温かみを肌に感じ、心がほっこりしました。「おつきさま、ジャングルジムのなかに はいっちゃった!」大人になっても子どもの心を忘れない作者の感性に感動です。素敵なお話を沢山届けてくださった八百板洋子さん、本当にありがとうございました。10月6日はこの本を手に、十五夜を見ようと思います。

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