作者のことば
植物をとおしてみえる世界
齋藤美保
私は、アフリカのタンザニアという国で野生キリンの調査を行っています。そこに生育する植物は、どれも日本にはいません。では、一体どのようにしてキリンの食べる植物の種名(名前)を知ることができたのでしょうか。その調査の様子をほんの少しご紹介したいと思います。
国立公園の中でキリンを見つけたら、彼・彼女が植物を食べ始めるまで辛抱強くあとを追いかけます。いよいよキリンが植物を食べ始めたら、その植物の特徴(実や花、トゲの有無、色、樹高、樹全体の形など)と大体の位置をノートにメモします。ちなみにキリンは樹の葉を食べることがほとんどですが(ポスターのウァケリアやタマリンドなど)、時には実(ポスターのディオスコレアやソーセージツリー)や花(ポスターのコンブレタム)を食べることもあります。キリンがその植物から十分遠くまで離れたら、その植物の葉が枝にどうついているかがわかる部分を、剪定鋏でちょきんと切ります。その時、花や実も一緒に採取しておくと、種名を調べるときに大きな助けとなります。採取した枝葉は家に持ち帰って、市場で手に入る古新聞紙に挟んでよく乾かします。植物がしっかり乾いた後は、テープで新聞紙に固定します。トゲのある植物も多く、服や手にトゲが引っ掛かって一苦労です。そうやって完成した植物標本を携えて約1、300㎞移動し、植物に詳しい大学の先生に種名を教えてもらいます。一つの植物の種名がわかるまでたくさんの時間と労力が必要ですが、一つでも種名がわかったらとても嬉しいものです。
種名がわかり、その特徴を少しずつ覚え始めると、見える景色の解像度が段々と上がっていきます。例えば、キリンが雨季に好んで食べるつる植物があります。でもその植物は乾季には生育しません。キリンにとってその植物は、雨季にしか味わえない、待ちに待った旬の食べ物なのかもしれません。時にはキリンが食べていた植物を、ゾウも鼻で器用に巻き取って食べている様子を観察しました。彼らの味覚はキリンと似ているのかな? と想像が膨らみます。食べ方も色々です。絵本で描かれているように首を上に伸ばして、舌を器用に使って葉を巻き取ることもあれば、今度は首をグイっと下におろして地面近くの植物を食べることもあります。それは、その植物が私たちの腰くらいの高さまでしか生育しないからです。こんなふうに、植物がわかるようになればなるほど、気づくことがどんどん増えてきます。見える世界が変わってくる、研究の面白さってこんなところにあるのかな、と思いながら、調査を終えて家路につく日々です。
基本情報
- カテゴリ
- 月刊誌
- ページ数
- 28ページ
- サイズ
- 25×23cm
- 初版年月日
- 2026年02月01日
- シリーズ
- かがくのとも
- ISBN
- ー
- テーマ
- ー
みんなの感想(0件)
まだ感想がありません。
ぜひお寄せください。
※いただいた感想は編集を加えたうえで、弊社宣伝物に使用させていただくことがございます。また、本サイトのより良い運営を妨げると判断した感想は、予告なく削除する場合がございます。ご了承ください。
※ご意見・ご感想への返信はいたしておりません。ご質問・お問い合わせについてはこちらをご参照ください。
※ご登録いただいたメールアドレスは、レビューに関する弊社からの問い合わせや連絡等の目的以外には使用しません。


