日々の絵本と読みもの

スキー場で産声をあげ、読み継がれて今年で70年『エルマーのぼうけん』

スキー場で産声をあげ、読み継がれて今年で70年

『エルマーのぼうけん』

男の子エルマーは、どう猛な動物たちの住む「どうぶつ島」でとらわれの身になっている「りゅうの子」を助けるために、こっそり家を出て一人で船に忍び込みます。エルマーの持ち物は、チューインガム、桃色の棒つきキャンデー2ダース、輪ゴム1箱、黒いゴム長ぐつ、磁石、歯ブラシとチューブ入り歯磨き、虫めがね6つ、よく切れるジャックナイフ1つ、くしとヘアブラシ、ちがった色のリボン7本、『クランベリいき』と書いた大きなからのふくろ、着替えを何枚か、それに船に乗っている間の食料。はたして、こんな持ち物で猛獣たちにどう立ち向かうというのでしょうか? さあ、エルマーの冒険が始まります……。



 

福音館の数ある絵本・童話の中でも、長年不動の人気を誇るロングセラー。忘れられない思い出のシーンを胸に刻み込んでいる方も多くいらっしゃることでしょう。エルマーが知恵を働かせ、持ち物を巧みに使って猛獣たちから逃れるシーンだったり、りゅうの子に乗って空高く舞い上がるシーンだったり……。ちなみに私はといえば、「どうぶつ島」の前に到着する「みかん島」でたわわに実っている「みかん」(エルマーが7つも8つも一度に食べるのがうらやましくて)、そして、エルマーがたくさんのワニたちに振る舞う「桃色の棒つきキャンデー」(いったいどんな味?)が忘れられません。どこまでも食い意地の張った子どもでありました……。



作者のルース・スタイルス・ガネットさんは、1923年ニューヨーク生まれ。名門大学で化学を専攻し、卒業後は医学や放射線の研究所で働きますが、数ヶ月で退職。レストランのウェイトレスを経て、友人から紹介してもらったスキー場のロッジでアルバイトを始めます。1945年の秋、終戦後間もなくのことです。スキーシーズンが始まってもなかなか雪が降らず、お客さんも少なくて退屈になったガネットさん。紙と鉛筆を出してお話を書き始めます。それが、『エルマーのぼうけん』の書き出しでした……。
 
その後、紆余曲折を経て1948年に『エルマーのぼうけん』出版に至るくだりや、物語のベースにもなっている子ども時代の思い出、そして、7人の娘の母親ともなったその後の人生については、『「エルマーのぼうけん」をかいた女性 ルース・S・ガネット』にくわしく語られています。戦前戦後を生きた女性の一代記として、たいへんなこともさらりとユーモアたっぷりに語るガネットさんの、なんともチャーミングなこと! ぜひご一読ください。

ガネットさんはまもなく95歳になりますが、ニューヨーク州の自然豊かな街で、いまも元気に暮らしています。それにしても、1945年冬のアメリカにすぐ寒波が押し寄せ、スキー場に大雪が降ってスキー客が殺到し、ガネットさんが退屈をもてあそぶ暇もなく忙しかったなら、もしかすると『エルマーのぼうけん』は誕生していなかったかも。まさに天の配剤と言えるかもしれませんね。

今年は『エルマーのぼうけん』出版70周年。各地の本屋さんで記念のフェアを開催していますので、ぜひ足を運んでみてください。


「日々の絵本」水曜担当・Y
チームふくふく本棚の長老。趣味は、お酒と野球とトロンボーン。
 

2018.07.11

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