日々の絵本と読みもの

実はスリリングな『ピーターラビットのおはなし』

『ピーターラビットのおはなし』

茶色い毛並みに青い上着を着たウサギ。ご存知、ピーターラビットは、絵本好きの方ならいまや誰もが知る存在ですね。かわいらしいキャラクターとしてピーターを知っている方に、ぜひ手に取ってほしい絵本が『ピーターラビットのおはなし』です。


いたずらっこのピーターは、お母さんの言うことを聞かず、お百姓のマグレガーさんの畑に忍び込みます。おいしそうな野菜を満喫した後、胸がむかむかするのでパセリを探していると、現れたのはマグレガーさん!

怒ったマグレガーさんはピーターを追いかけます。何度かつかまりそうになりながら、畑の出口を探すピーター……途方にくれて涙を流しますが、さらに数々の困難を突破して、出口を発見し、命からがら家に逃げ帰りました。 

疲れ果てたピーターに、お母さんは「かみつれをせんじたくすり」を飲ませてくれます。ピーターの家族は他に3匹の子ウサギがいますが、お父さんの姿は見えません。

お母さんによると、お父さんは「マグレガーさんのおくさんに にくのパイに されてしまったんです」とのこと。ピーターの逃走劇は、まさに命がけだったことがわかります。

かわいらしいピーターの絵から想像するよりもずっと、現実を容赦なく描き、スリリングな展開で引き込むのがこのお話の魅力なのではないでしょうか。

お話の作者はビアトリクス・ポター(1866~1943)。ポターは少女時代から自然を愛し、動植物のスケッチに没頭し、卓越した観察力と描写力をやしないます。最初の作品『ピーターラビットのおはなし』は、ポターが知人の息子さんに送った絵手紙を元に絵本として作られ、ベストセラーとなりました。

その後もポターは、のどかなイギリスの田園を舞台に小動物たちが主人公の物語を作り続けます。時にはユーモラス、時にはシリアスな事件が、写実的かつ淡く美しい水彩画によって展開されるシリーズは子どもたちに大人気となり、日本でも1971年に最初の2巻が石井桃子さんの翻訳で刊行されてから、多くの読者に愛され続けています。

この11月福音館書店の「ピーターラビット」シリーズは、おはなしの内容や美しい訳文はそのままに、表紙デザインを一新して生まれ変わりました。
 

時代をこえて読み継がれる作品の魅力を、あらためて感じていただけたら幸いです。

2019.11.01

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