日々の絵本と読みもの

野生動物のまなざしをとらえた写真絵本『もりはみている』

もりはみている

写真絵本『もりはみている』の表紙はとても印象的です。木の幹にあいた巣穴から、黒い小さな瞳がこちらをじっと見ているからです。表紙をひらくと、この奥にはなにがあるのだろうと感じさせる、苔むした緑の深い森。「もりは しずまりかえり なにも しゃべらないけれど」という言葉とともに、しばし日常を忘れ、思わず、なにかの気配に耳を澄ましてみたくなります。

表紙の、黒い小さな瞳の持ち主は、松の木の巣穴からのぞいていたアカリスでした。ちょこんと顔だけを出している姿から、リスの好奇心旺盛な様子が生き生きと伝わってきます。

梢の葉の間からはゴジュウカラが、ヤマナラシの木の上からは子グマの兄弟がこちらを見ています。登場する動物たちの、じっとこちらをみつめる瞳には、読み手を一瞬にして静かな森の奥へ誘う力があります。そして、木立の向こうから現れたトナカイには、まるで実際に森の中で出会ったような驚きを覚えます。読後には深い森を旅してきたような余韻が残ります。

作者は、北米ノースウッズの森で野生の動物や自然を撮り続けてきた、大竹英洋さん。今年、初めての写真集『ノースウッズ―生命を与える大地―』(クレヴィス)で第40回土門拳賞を受賞された、今まさに注目の写真家です。

ノースウッズとは「アメリカとカナダの国境付近から北極圏にかけて広がる湖水地方」のこと。世界最大の原生林のひとつでもあるこの土地には、カリブーやオオカミ、ホッキョクグマなどさまざまな野生動物が生息しています。しかし、そのような広大かつ厳しい自然環境の中で、野生の生き物に出会うことは望んですぐかなえられることではありません。一枚一枚の写真は、ノースウッズへ何度も通い続けるなかで、その一瞬一瞬を大事に撮ったものばかりなのです。

森の中に入り、四季折々の自然の営みやそこで暮らす生き物を見てきた作者が、あるとき、実は自分が森に見られているのだと感じ、いつかその感覚を絵本にしたいと思うようになります。自分を受け入れ姿を見せてくれた動物たちに真摯に向き合う。『もりはみている』は、そんな作者の気づきから生まれた作品です。

動物たちの息づかいや葉擦れの音まで聞こえてきそうな森の世界を、子どもたちにもぜひ味わってほしいです。そして、いつか大人になったときに、自然によってもたらされる命の営みに思いをはせてもらえたら、と願わずにはいられません。

担当M ノースウッズは、たくさんの湖が点在するため、カヌーをつかって移動するそうです。うつくしい森と湖。いつか、旅してみたい憧れの場所です。



大竹英洋『ノースウッズー生命を与える大地ー』を土門拳記念館にて開催中!(会期終了)
 
現在、第40回土門拳賞受賞を記念した写真展が、山形県酒田市の土門拳記念館で開催されています。40回目の受賞作品展となる本展では、大型プリント作品を中心に、長年の旅の集大成をご覧いただけます。


第40回土門拳賞受賞作品展 
大竹英洋『ノースウッズ―生命を与える大地―』
会期:2021年10月6日(水)~12月22日(水)
会場:土門拳記念館(山形・酒田)
休館日:12月6日(月)・13日(月)・20日(月)
入館料:一般700円、高校生350円、中学生以下無料
開館時間:午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
http://www.domonken-kinenkan.jp
※会期は終了いたしました。

2021.10.08

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