あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|沼口麻子さん『ホホジロザメ』

サメというと、「海の恐い生き物」というイメージが強いですが、一方で、実際の生態などについてはあまり知られていないかもしれません。そんな恐いサメの代表格とも言える、ホホジロザメに詳しく迫った絵本が、6月の新刊『ホホジロザメ』です。作者は、サメのことをひたすら追いかけている沼口麻子さん。世界で唯一の「シャークジャーナリスト」という肩書もお持ちの方です。沼口さんに、ご自身の活動や今回の絵本作りへの思いをエッセイに寄せていただきました。

サメと私と絵本作り

沼口麻子


この週末は私が主催する『サメサメ倶楽部』のイベントの日でした。サメを学びたいメンバーが全国から集まって、少しマニアックなサメの体験学習をするのです。
初めまして。沼口麻子と申します。私はシャークジャーナリストという肩書のフリーランスで、世界各国のサメを取材したり、本を書いたりしています。また、専門学校でサメについて授業を行なったり、サメ好きの子どもたちに向けてサメを学ぶフィールドワークや、解剖・標本作りを教える講座を企画したりしています。
私は幼稚園児の頃から生き物に興味を持ち、魚の勉強をしたかったため、東海大学海洋学部へ進学しました。そこで卒業研究のテーマでサメを専攻したことからどっぷりとサメが好きになり、今の仕事に就きました。私が住む静岡市清水にはサメの標本でいっぱいの自宅、通称サメラボがあります。月に一回、そこで小学生を中心としたイベントを開催しています。テーマは「サメの顎標本を作ってみよう」。
サメは顎をどのように動かして獲物を捕食するのでしょうか。顎の骨はどの骨とどこでどのように繋がってどう動くのかを学んだ後、サメラボのお庭にあるサメ専用の解剖台を使って、サメの頭から顎の骨を切り出して標本を作る一連の流れを体験します。
実際にサメに触れた子どもたちの反応を見てみると、ザラザラとしたサメ肌のさわり心地や初めて嗅ぐサメの匂いに驚きを禁じえないようです。サメの仲間は3億年以上前から地球上に存在していて、現在、500種以上が知られています。いろいろなサメに更に興味を持ってもらうこと、次から次へと新しい疑問を投げかける子どもたちと一緒に、私を含め、参加者の皆さんでサメの知識を上げていくことが狙いです。


そんなサメの教育活動をしている私が、恐れ多くも「ホホジロザメ」という絵本を出版できることになりました。ホホジロザメといえば、6.4m以上に達する巨体の持ち主で、あんぐりと大きく開いた口に鋭い歯がずらっと並ぶ……そんな彼らの姿を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。ホホジロザメはサメの中で最も知名度があり、そして世界的にも人気ナンバーワンのサメです。まだ研究で明らかになっていないことも多いのですが、科学論文を参考にして、また、明らかになっている近縁種の生態を参考に絵本を作りました。


サメラボにある、彼らの歯をひとつ手に取って観察してみます。クリーム色で艶々した5cmくらいの薄べったい二等辺三角形。歯の両サイドには鋸のような無数のギザギザがついています。このあざやかな切れ味であろう刃物で襲われた獲物はひとたまりもないでしょう。そんな彼らの自然で生き抜く力強さを描いてみました。今回、絵を担当くださった関俊一さんのお陰で、ホホジロザメの生活の一部をリアルに感じることができるのではないかと思います。
多くの皆様に手に取っていただき、サメに関心を持ってもらえる一助となれば本望です。よろシャーク。

沼口麻子 (ぬまぐちあさこ)
1980年生まれ、静岡県在住。東海大学海洋学部を卒業後、同大学海洋学研究科水産学専攻修士課程修了。在学中は小笠原諸島父島周辺海域に出現するサメ相調査とその寄生虫(Cestoda条虫綱)の出現調査を行う。現在は世界で唯一の「シャークジャーナリスト」として、世界中のサメを取材し、サメという生き物の魅力をメディアなどで発信している。サメ談話会やオンラインサロン「サメサメ倶楽部」を主宰。著書に『ほぼ命がけサメ図鑑』(講談社)がある。趣味はサメ顎標本作り。たくさんの標本に囲まれながら眠りにつくことが一日の楽しみ。BOA AGENCY所属。

2022.07.06

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