あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|百木一朗さん『すいどう』

ふだん使っている水道の水。いったいどこから来るのでしょう? そんな疑問を出発点にした絵本が新刊の『すいどう』です。道路に埋まっている水道管や家の中を通る水道など、ふだん目にできない水の流れを、絵本ならではの表現でわかりやすく見せてくれ、新鮮な発見がある絵本です。作者の百木一朗さんに、絵本に込めた思いについてエッセイを寄せていただきました。

見えない水道を見る

百木一朗

我が家の水道が水漏れしたことがありました。工事業者さんは場所を特定して、床板をノコギリで切っています。後できれいに修復できるよう考慮したプロの仕事です。僕はモノ作りや修理に興味があるので、自宅で起こったこの作業をよく見る事にしました。
切り開かれた四角く暗い穴の中に壊れているであろう水道管が見えます。意外と細い管だ。こんなふうに床のすぐ下にあるのだな、と興味津々です。
この絵本は、蛇口からなぜ水が出てくるのだろう? それは見えない水道がここまで続いているからだ、ということを子供たちに感じてもらおうと描いたものです。
それには、我が家の出来事をヒントにして、道路の水道管修復工事を描くのはどうだろうと考え、地元水道局にお願いして工事の取材もおこないました。
ショベルカーが大きく掘った土の中に水道管が露出している。その水道管を、もし子供と一緒に見て「この水道はあの道の角を曲がってゆうちゃんの家まで続いているんだよ」と言ったら、僕は水道の配管を思いますが、子供には中を勢いよく流れる水が目に浮かぶかもしれない、と思ったりしました。



水道は家庭などで使われたあと、下水道へ導かれ、再び地面の下を流れることになります。下水処理場できれいにされた水は海へ行き、やがて水蒸気になって空へ上っていくものもあります。それは雲になり、雨となって降り注ぎます。そして川から浄水場へ取り込まれ、また水道へと循環することでしょう。
道路で、見えない水道を感じることの出来るものにマンホールがあります。大きく円いマンホールの蓋のほか、小さいものや四角い蓋もあります。普段気にすることはありませんが、意識して見ると、立っている周りだけでも道路上には随分たくさんの蓋があることに気付きます。
その中でも「仕切弁」と書いてある蓋は水道のメンテナンスのとき一時的に水を止めるためのバルブが入っている所です。一定間隔でその蓋はあるので、たどれば水道のコースがわかります。水道局の人によると、水道は単純な枝分かれではなく、臨時のときに別のルートから供給できるようになど考えられた配管になっているそうです。
家に入っていく時、道路近くにある蓋の中に元栓と水道メーターが入っています。マンションなら、玄関ドア横の鉄扉の中にあり、水道管が本当に見える場所です。ガスの配管もあったり複雑でちょっとした不思議空間かもしれません。そこから先はまた床下へ入って、見えなくなるわけです。
絵本では、道路の下を行く見えない水道を点線で描き、次のページ、次のページへと流れを想像できるように工夫しました。家の中に入り、点線は台所へ、トイレへ、浴室へ、と進みます。子供たちがその流れを指でなぞるように見てくれれば嬉しいなと思います。



百木一朗 (ももきいちろう)
1951年、京都市生まれ。京都教育大学特修美術科卒業後、工業デザインに長年携わる。1980 年、奈良県生駒に「一風工房」設立。モノや技術の、人との関わりを描いている。著書に『直す現場』(ビレッジプレス)など。「かがくのとも」に『パンクしゅうり』(1986年11月号)『かざぐるまのくに』(永田智子・絵、1996年2月号)『くつのうらは ぎざぎざ』(2011年7月号、いずれも現在品切れ)、『くっつける はなす』(2022年12月号)がある。奈良県在住。

2022.12.07

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