あのねエッセイ

「ぐりとぐら」60周年記念エッセイ|護得久えみ子さん「Kさんの『ぐりとぐら』のうた」

お料理することと食べることが大好きで、青と赤のつなぎと帽子がトレードマークの、ふたごの野ねずみ「ぐりとぐら」は、おかげさまで今年、60周年を迎えました。そこで今月の「あのね」では、60周年を記念して、児童室で日々子どもたちと「ぐりとぐら」を楽しんでいる東京子ども図書館の護得久えみ子さんに、エッセイを寄せていただきました。

Kさんの『ぐりとぐら』のうた

護得久えみ子

東京子ども図書館の児童室では、来館する子ひとりひとりにスタッフが声をかけ、一緒に本を読むことを日常的にしている。初めて来る子の中には、「図書館の人」に読んでもらうことに緊張する子もいるが、その気持ちはよくわかる。わたし自身、人見知りの子どもだったので、たまにしか行かない公共図書館で、「図書館の人」に本を読んでもらうなんて考えたこともなかった。
いつのことか覚えていないが、その日、新人のわたしはベテランの先輩Kさんと一緒に児童室の当番をしていた。わたしがカウンターに座っていると、Kさんが来館した子に『ぐりとぐら』を読む声が聞こえてきた。あ、『ぐりとぐら』だな……と思ううちに、Kさんの歌声が聞こえてきた。

 「ぼくらのなまえは ぐりとぐら このよでいちばん すきなのは おりょうりすること たべること……」

それは、とても楽しいうただった。このうたに節をつけて歌うのを聞くのは、わたしには初めてのことだった。これ、ほんとうのうただったんだ!
聞いている子は、驚いた風でもなく、Kさんに体を預けるようにして座っている。一冊の絵本を読むことで、子どもが「図書館の人」をこんなにも信頼しているということも、わたしの心を動かした。そして、わたしも子どもの頃にこんな「図書館の人」に出会いたかったと、うらやましくなった。
もちろん、このうたは、絶対に節をつけなくてはいけないというものではないし、 決まったメロディがあるものでもない。でも、わたしにとって、『ぐりとぐら』といえば、やっぱりKさんの歌声なのだ。いまではわたしも、Kさんのうたを「耳コピー」して、児童室の子どもたちと楽しんでいる。



護得久えみ子 (ごえくえみこ)
1982年生まれ。2005年に東京子ども図書館研修生となり、07年より同館職員。資料室や児童室の運営、児童図書館基本蔵書目録『絵本の庭へ』『物語の森へ』『知識の海へ』(東京子ども図書館)の編纂などにかかわる。

2023.08.02

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