たろうのおでかけ

こどものとも|1963年4月号

たろうは、なかよしのまみちゃんの誕生日に、すみれの花とアイスクリームをもって、動物たちといっしょに出かけました。みんなはうれしくって、とっとこかけだしますが、町の中ではおじさんたちに「けがをするから、だめ!」といわれて、なかなか先を急げません。でも、原っぱにきたら、もう思いっきり……。交通ルールを教えながらも、元気いっぱいの絵本です。

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「たろうのおでかけ」のこと 村山桂子(作家)

「たろうのおでかけ」を書いたのは、もう、十五年もまえのことです。
「幼児の交通安全のために、何か書いてみませんか」と、編集部からいわれたとき、正直いって、とてもゆううつでした。
何しろ、交通安全のためのルールを教えるお話です。どう考えても、たのしい物語なんかできそうもありません。
 できたとしても、せいぜい、警察の紙芝居ていどのものでしょう。そういえば、私は、当時、幼稚園に勤めていましたので、この警察の紙芝居というのを、よく見せられたものです。毎年、春・秋の交通安全週間には、交通課のおまわりさんたちが、交通指導の紙芝居を持って、幼稚園へやってくるのです。
 園児たちは、おまわりさんの紙芝居を、もの珍しく見物はしますが、これは、おせじにも、たのしいというものではありません。
 もちろん、それは、文字通りの交通指導なのですから仕方がありません。
 しかし、「こどものとも」の編集部は、交通課ではなく、格調高い子どもの絵本を作るほんやさんなのです。単なる交通指導の本でいいはずがありません。
 もう、十五年もまえのことですが、この作品の構想をねるために、一日中、交通のはげしい大通りや、その裏通りを歩きまわったことを覚えています。
***
 
さて、登場人物は、おなじみのたろうと、その友だちの動物たち――。
 道路を歩くときの注意や、きまりを理解させるために、彼らに交通違反をさせ、そのつど、注意をしていくことにしました。
 もう少し、情緒的な筋立てはないかと考えましたが、何しろ、テーマがテーマです。
 この種の素材は、情緒ではかたづきません。歩行者としての交通のきまりを、はっきりと、子どもたちにわかってもらうしかないのです。
 そのために、子どもたちにとって、いちばん不愉快な禁止のことば「だめ だめ だめ……」を、連発することにもなりました。 
たのしいはずのお話の中で、「だめ だめ だめ……」と、いちいち、禁止されていたのでは、子どもたちはたまったものではないでしょう。
 しかし、この作品に限っては、これでいいのだと、私は信じているのです。
 なぜならば、これは、子どもたちの生命にかかわることだからです。でも、そのかわり、原っぱの場面では、思いきり、たろうたちの心とからだを、解放させてやることにしました。
 身体の安全のために、社会のきまりのために、やむなく受けた束縛から、たろうたちは(読者も)やっと解放されたのです。 
 ですから、この絵本を見たあとで、「だから、あなたも、交通のきまりを、よく守らなくちゃだめよ」などと、重ねての注意や、お説教は禁物です。別の日、子どもたちが、道路や、交差点で、ふと「たろうのおでかけ」を、思いだしてくれればさいわいです。
*** 
この絵本が出てから、××区役所の広報課とか、○○自動車のPR課などから、よく、「交通安全の絵本を―」と、頼まれますが、みな、おことわりしています。このテーマに関して、私には、もう、この「たろうのおでかけ」以上の絵本はできそうもないからです。
 つまり、私は「たろうのおでかけ」が、とても気に入っているのです。四月号として、またの刊行を、心からうれしく思います。

基本情報

カテゴリ
月刊誌
ページ数
28ページ
サイズ
19×26cm
初版年月日
1963年04月01日
シリーズ
こどものとも
ISBN
テーマ

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