そらいろのたね

こどものとも|1964年4月号

ゆうじが模型飛行機と交換にきつねからもらった空色の種を、庭にうめて水をかけると、小さな空色の家がはえてきました。空色の家は少しずつ大きくなり、最初はひよこやねこが、そのうち友だちや象の親子もやってきて家に入りました。やがて森じゅうの動物が入れるくらいに大きくなったとき、そこへやってきたきつねは……。「ぐりとぐら」のコンビのもう一つの大人気絵本です。

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「そらいろのたね」のきつねに寄せて 中川李枝子(児童文学者)

 「そらいろのたね」を書く以前のことになりますが、保育園にとても欲張りな四才の女の子が入ってきました。名前はひろこちゃん。
 人形のように愛くるしく、利発で、打てば響くような子でした。が、響きすぎてか神経質で我が強く、なかなか友だちと遊べません。
 いつもひとりで五人分位の玩具を抱えこみ、「取られてなるものか」と油断なく見張っているのが彼女の遊びでした。この山と積んだ宝を誰かがこっそり持っていこうとするのを待ちかまえていて「だめー」と叫び「キーッ」と悲鳴をあげるのです。これには腕白連中も歯が立たず、耳を押えて退散するのみでした。
 ある日、ひろこちゃんは積木を二箱もせしめました。数ある玩具の中で積木だけは独占を許されない公共物の筈なのに、彼女は正々堂々、箱にキッチリふたをしてその前に座りこみました。さあ、他の子たちは大憤慨で彼女を取り囲み、口々に非難を浴びせかけ、「先生にいいつけてやる」とどなりました。
 すると、ひろこちゃんは目をつり上げて一同を睨み返すや声高らかに、「ええ、アイス、アイスクリーム、おいしいアイスクリームはいかが」とやり出したものです。
 とたんに情況は一転「ください」「ください」と手がのび、ひろこちゃんは愛想よく、
「はい、何にしますか、チョコレート? ストローベリィ? おや、どっちも売り切れでした。三色クリームならありますが……それとも他のがいいですか」といった調子で売り出しました。さすがはひろこちゃん、客の注文に色々と理屈をつけ、たっぷり時間稼ぎをした末にやっとボックスのふたを開けるのです。それでも二箱分のアイスクリームは残らず売り切れ、ひろこちゃんは友だちに誘われるまま遊びに加わっていきました。
 それからというもの、ひろこちゃんは集めた玩具を大道商人よろしく広げて売るようになりました。とともに、彼女流の何でも彼でも手当り次第に抱えこむ八方破れの欲張りぶりは次第に消え、いつの間にか商売の方もやめて、皆と一緒に遊ぶようになっていました。
 欲張ってもあまり良い目には会わないことに気づいたのでしょう。
 でも、ちいさい物にも目を止めて感動し、大事に扱う心だけは残ったようでした。
 ひろこちゃんに限らず、どの子もどの子も皆、幼いころは相当な欲張りやだったといえます。彼らは恥も外聞もなく無邪気にその鉄面皮ぶりを見せてくれたものです。
 夏の暑い最中でした。エプロンを二枚かさねてしめ、お古のランドセルを背負った上に、赤ん坊位もある人形をおんぶし、両手にはつめられるだけ玩具をつめた重い手下げ袋を下げ、大汗をかいていたけいこちゃん。
 彼女にとっては、どれひとつとて手放せない大事な物だったに違いありません。
 梅干しを見るたびに思い出すのはさちこちゃんです。彼女は食の細い子で、お弁当にはいつも色とりどりのおかずが並び、ごはんはほんのちょっぴり。それも必ず海苔がのっているというのに、ある時突然「おかずがなくて食べられない」といいだしたのです。
 見ると、なるほど、さちこちゃんのお弁当箱にはごはんしか残っていません。しかも、海苔だけ先に食べたらしく、おしょうゆが薄くしみています。ハハァと私は思いました。
 その前日、おかずを先に食べてしまった、るみちゃんに、私は梅干しを半分あげたのです。
「それじゃ」と私はお弁当の中から梅干しを出してふたにのせました。テーブルの子たちの目がいっせいに梅干しに集まりました。その瞬間、さちこちゃんは電光石火の早わざで梅干を丸ごと口に入れたのです。さちこちゃんの顔のなんともすっぱそうだったこと! 本当に御苦労様としかいいようがありませんでした。
 幼い人たちの欲深さには微塵の悪意もないし計算もありません。彼等は人にどう思われようと、ただそれを「とても良い物、たからもの」と信じ必死で手に入れます。
 そして、熱中しすぎては、にっちもさっちもいかなくなり、骨折り損のくたびれ儲けみたいな結果となってしまうのです。
 目をまわしてのびた「きつね」にしても同じ、彼はいたって気の良い欲張りやだったのです。

基本情報

カテゴリ
月刊誌
ページ数
28ページ
サイズ
19×26cm
初版年月日
1964年04月01日
シリーズ
こどものとも
ISBN
テーマ

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