福音館書店

くいしんぼうのあおむしくん

こどものとも|1975年10月号

空の色をした変な虫がまさおの帽子を食べていました。そのあおむしはくいしんぼうで、おやつでも紙くずでも、何でも食べてどんどん大きくなりました。町のゴミを全部食べてしまうと、とうとう町ごとパパやママもみんな食べてしまったのです。仕方なくふたりは旅にでましたが、あおむしは出会うものすべてを食べつくし、ついに地上には何もなくなって……。壮大なスケールのSF的な物語。

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パパやママやボクのあいだに 槇ひろし(画家)

子どもの世界
 私を待っていてくれる子どもたちがいて、週に二度、出かけて行きます。ひとつは下町の保育園、もうひとつは都心にある絵画教室、そこで絵を教えているのですが、見かけよりは、なかなか骨がおれます。無邪気に楽しくやりながら、子どもたちがのびやかに描いてくれさえすれば、それで充分であるようなものの、実は、それだけではすまされない問題も、少なくはありません。
 子どもたちは元来、絵を描くことが好きです。おとなたちが押しつけてしまう偏見や、子どもたち自身の思い違いによる萎縮を、取り除いてやりさえすれば、どの子ものびのびと描く力を持っています。ですから、描くということには、さほど問題はないのですが、時に、考えこんでしまうのは、子どもの世界と、私たちおとなの判断との関係についてです。子どもたちが自由に描けば描くほど、それが子ども自身の世界に、リアリティーの根を、深くおろしていればいるほど、そこには、私たちおとなの判断をはるかに超えた、不思議な世界が顔をのぞかせます。未熟ゆえの無邪気さとか、ナイーブな奔放さなどといって片づけられない、別次元の世界がそこにあります。おとなのメジャーを持って見ますと、たしかに子どもたちは不完全で未熟です。しかし、子どもたちとて、生きているということにおいては、パーフェクトです。おとなの目には不足に見えるその隙間に、私たちの判断を超えた感性や思考が渦巻いて、別次元の世界を作っているように、私には思えるのです。
  
似て非なるもの
 しかし多くのおとなたちが、この世界に傲慢な寛容さを示して、立ち向かおうとします。寛容な顔をしながら、その実、自分たちの判断の中へ何もかも抱えこもうとします。そしてひとたびそれに失敗すると、今度は不必要な自信喪失に陥ってしまうことも、ままあることです。そんなとき、「子どもとおとなの顔、形が、なまじ似ているからいけないんだ」と考えこんでしまいます。いっそ、オタマジャクシと蛙のように、まったく違った形態から出発すれば、どこかに共通項を見つけるだけで充分に楽しく、(だから差異もまた楽しく)、もっと高い次元から子どもたちの成長を見つめ、それに触れてゆく術を見つけることが、出来るのではないだろうかと、つい勝手なことを考えてしまうのです。
 似て非なるもの同士の関係、そう考えることによって、子どもたちとのコミュニケーションのパイプが、案外、新鮮で楽しいものになります。少なくとも、私にとってはそうなのですが、そのパイプの中から、いつも妙ちくりんな「お話」が生まれてくるのです。

お話を追いかける 
 子どもたちの熱い視線に引きづられて、ほとんど、口から出まかせのように連なってゆく自分の言葉が、思いもよらぬ所へ展開してゆくとき、私は奇妙な興奮の中にいます。自分が物語を創っているという実感はなく、子どもたちの視線や溜め息に引きづられて、勝手に歩いてゆく「お話」を、懸命に追いかけているのです。私がやっとそれに追いついたときにはもう、子どもたちは猛烈な勢いで、画用紙に向かってダッシュしています。五十人の子どもたちが、五十通りの物語を夢中で描いてゆきます。「ああ、この子たちもやっぱり、あの話を追っかけていたんだな」と考えながら、そこに、私には想像もつかなかった別次元の追いかけ方を見つけて、思わずうれしくなってしまいます。私との差異が大きければ大きいだけ、非なるもの同士をつなぐ「お話」のパイプが、私を喜ばせるのです。

お話のスケールを保つために
 こうして生まれた「お話」を、友人の前川欣三君とともに、数冊の絵童話や絵本に組み立ててみました。「くいしんぼうのあおむしくん」も、その中のひとつなのですが、本が出来上がったとき、子どもたちに訊かれました。
「お絵描きの先生なのに、どうして自分で絵も描かないの?」 
 子どもたちより、もっと多くのおとなたちからも、同じような質問を受けましたが、自分で絵をつけない理由はふたつあります。ひとつは、子どもたちの視線の中から生まれて来た話を、出来るだけ生まれたときと、同じような形で組み立ててみたいと思うからです。ですから、私たちは、ちょっと変わった本の作り方をしています。
 まず、ひとつの机をはさんで、前川君と向かいあい、子どもたちに話したように、彼に話をするのです。聞きながら彼はスケッチを取ります。私もまた、手元のノートに、スケッチと文章を描きます。一場面出来ると、前川君の描いた絵を見ながら、話を展開してゆきます。
彼もときどき私のスケッチを覗いたりしながら、どんどんスケッチを重ねて、話を引っぱってゆくのです。こうして作るのですから、子どもたちにした話と同じ展開とは限りません。しかし、こうした方法によって、子どもたちとの現場にあった、ダイナミックなスケールは、失われないですむと、私は考えているのです。
 けれども、話のスケールを保つためだけに、このような方法をとっているわけであありません。ほんとうは、もっと重要な理由があります。

「複数思考」と「複数感性」
 ちょっと堅苦しい言葉ですが「複数思考」と「複数感性」という考え方に基づくものです。これは絵本に関係なく、現代美術の仕事の中で、数年前から前川君たちと何度か実験を繰り返して来ているテーマです。どういうことかというと、複数の人間の接点に、思考や感性が自立できるかという問いに対する、実験です。複数の人間が協力し合うということとは少し違います。ひとりでは持ち上がらない岩を、大勢の力で上げようというのではなく、複数の人間が出会うことによって、初めて感じたり考えたり出来るものを、具体化してみようという試みです。
 このように書くと、ずいぶん理屈っぽく響くかも知れませんが、具体的には、子どもたちと私とのあいだに生まれてくる「お話」のようなものです。あの物語は私がひとりで創ったとも、子どもたち自身が創ったともいえません。じゃあ、共同制作かというと、そうでもありません。私と子どもたちが出会ったことが、この「お話」を可能にしたのです。
 作り方はどうでも、よい話が出来れば、それでいいでなはいか、という意見もあります。たしかにそうかも知れません。完成度だけを問題にすれば、作り方などどうでもよいはずです。しかし、果たして、私たちに必要なのは完成度だけでしょうか? 完成度が重要なのと同様に、それに触れてゆく角度や方法も、大切な問題です。私たちが、何をどう作るか、作られたものをどう扱うか、という「触れ方」は、儀式や完成度とともに、文化の基盤を形作るものです。いつの時代も、新しい文化への脱皮は、新しい触れ方の中に活路を求めます。
 さきほど、似て非なるもの、といういい方をしましたが、これは子どもの世界に対する私の触れ方です。そういう触れ方をとることによって、私は、子どもの世界との関わりの中に、新しいリアリティーを求めようとしているのです。子どもの世界との関係だけではありません。男性と女性もやはり、どこかで別の次元に生きていますし、厳密にいえば、私たち個々の関わりにおいても、そういうことがいえるかも知れません。それらを、差異か共通か、全体か個か、正か負か、美か醜かというような二元論ではなく、互いの接点に感性や思考を自立させ、そこからあらためて、個とか全体とかいう問題を、考え直してみようというのが、私たちが呼ぶ「複数思考」のテーマなのです。
 ともあれ、私たちの文化は、矮小(わいしょう)な二元論の中で、完成度ばかりを問題にしながら、脳軟化をきたし始めているようです。
 子どもたちについて考えてみましても、パパとママとボクが互いに個として自立している関係が、もしくは、家族という全体か、という問題に封じ込められているように見えます。パパとママという個別の人格ばかり見るのではなく、パパやママの接点に自立する別の人格を見、そこにボクが加わることによって、三点の中間に、また別の感性と人格が自立する……そのような「触れ方」の中から、新しい何かが、生まれてくるように思えるのですが……。

基本情報

カテゴリ
月刊誌
ページ数
32ページ
サイズ
19×26cm
初版年月日
1975年10月01日
シリーズ
こどものとも
ISBN
テーマ

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