福音館書店

せんたくかあちゃん

こどものとも|1978年8月号

いいお天気のある日、洗濯が大好きなせんたくかあちゃんは、家中の洗濯物をすっかりあらってしまうと、イヌもネコもニワトリも子どもたちも、みんなつかまえて洗濯してしまいました。全部ほしたところに雷が鳴って、かみなりさまが落ちてきました。せんたくかあちゃんがかみなりさまも洗濯してしまうと……。さとうわきこの「こどものとも」でのデビュー作です。

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洗濯迷想 さとうわきこ(絵本作家)

 父は不器用なのに、ものを作ることの好きな人で、よくなにか作っていました。わが家の物干し台なども父のお手製で、わが家では、釘を何十本もうちつけた、それこそ釘だらけの物干し台が、高らかに洗濯物を空になびかせておりました。
 父が亡くなってから、のこされたおんなどもは誰も釘も金づちももたず、あらゆるものを朽ちるにまかせて、物干し台も例にもれず朽ちてしまうと、庭中の木から木へめちゃくちゃに綱をはりめぐらしては、洗濯物を干すようになりました。
 日曜日などは家中の者が次々と洗濯をするので、それこそ庭中が洗濯物に占領されてしまいます。
 そのころの洗濯は、青空の下でガチャン、ガチャンと井戸水をたらいにいっぱいくんで洗濯板でゴシゴシ洗う、あの方法です。固形の洗濯せっけんをつけてゴシゴシ洗うと、どこもかしこもほんとにきれいになります。時々、親指のつけねがすりむけてしまうこともありますけど、そのころになるとたいて全部洗えていました。
 それを干し終わると、ほど良く疲れて縁側にすわります。青空にはためく洗濯物を見ながら、冷たい水とかサイダーを飲むときの気分はすばらしいものでした。気がつくと手は白くふやけてしわだらけでした。
 木から木へ干された洗濯物ですから、時々、小鳥などにふんをかけられたりします。でもこちらが小鳥たちの領域に踏み込んだのですから、がまん、がまんです。榎(えのき)の木には、しじゅうからやひよどりがしょっちゅう来ていましたし、樫(かし)の木には、鳩が巣を作っていましたから、とり込むときは気をつけなければなりません。毛虫が散歩していたり、蜂がもぐり込んでいたり、へひり虫がいたりします。私はあるとき、洗いたてのズボンをはこうとして、ズキンと来た痛みにギャッと飛びあがってしまいました。ズボンの中に蜂がかくれていたのを気づかずにはいてしまったのです。
 近ごろ、手で洗うのはウールのセーターぐらいになりました。文明の利器を使って時間を節約した結果、大切なものをなくしてしまったような気がします。あのさわやかさは、全自動の洗濯機で洗ったって、干すときにちょっぴり味わうことができます。でも、あのほど良い疲れや、しわしわの白っぽくふやけた手で飲む一杯の冷たい水のうまさは、みんな味わえなくなってしまいました。
***
 ある日、洗濯物を見つめて思いました。
「あの感じ、なくしてしまったあの感じ…」そう思ったときに、「せんたくかあちゃん」の話を思いついたのでした。それをなんとかまとめて、「母の友」に載せたのが七年ほど前だったと思います。
 そのころは、まだ私の生活にもたくましさがのこっていたのでしょうか。描かれたかあちゃんはヨレヨレのアッパッパを着て、がむしゃらでたくましいかあちゃんでした。
***
今度絵本にするにあたって、一番の苦労がこのかあちゃんの表現でした。
どうしても以前のような、たくましいかあちゃんにならないのです。絵本作りの話があってから二年間、私の生活を見直し、私自身もたくましく生きようと思いました。そして、やっと、もとのかあちゃんに近づきましたが、やっぱり少しちがうようにも思えます。
自分の生活態度が、絵の表現にも大きく関わっているのだということをつくづく感じさせられたのでした。 

基本情報

カテゴリ
月刊誌
ページ数
32ページ
サイズ
19×26cm
初版年月日
1978年08月01日
シリーズ
こどものとも
ISBN
テーマ

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