福音館書店

いもうとのにゅういん

こどものとも|1983年2月号

あさえが幼稚園から帰ってくると、お母さんはぐったりした妹のあやちゃんを病院につれていくところでした。友だちと遊びながら待っていると、お母さんが帰ってきて、あやちゃんが盲腸の手術で入院することになったといいます。あさえはお父さんが帰ってくるまで、ひとりで留守番をします。そのうち暗くなって、雷が鳴り……。妹の入院でちょっぴりお姉さんになったあさえの物語です。(こどものとも323号)

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うそこの時 筒井頼子

「うそこに、おかあさんがいないことね」
「うん、死んじゃったことね」
 子どもたちの空想遊びは、大抵いつもこんな会話のやりとりで始まります。おかあさんは、いともあっさり殺されてしまうのです。そんな時、もし私と目線が合うようなことがあれば、少しばつの悪い顔で、
「うそこだよね」
「うん、ウソコ」
 とても力を入れて繰り返したりします。
 子どもたちが空想の翼を拡げて、冒険の旅へはばたく時、親はとても邪魔な存在なのです。
 私だってそうでした。“親のない子”に、どんなに憧れたことでしょう。
『母を尋ねて三千里』『小公女』『秘密の花園』それに『ハイジ』『赤毛のアン』……私をときめかせた主人公たちは、誰も皆、親不在の状況の中で、劇的に生きる子どもたちでした。
 暖かい湯気のたつ食卓と、寝につく時の子守歌の、甘美なぬくもりが確保された世界の中で、私はもらわれっ子であったり、ひろわれっ子であったりすることを、いくぶんかは罪の意識を感じながら、こっそり想像しては涙を流して楽しむ癖のある罰(ばち)当りな子どもでした。
 でも、罰当りな子どもというのも、いつの時代にも案外多いのではないでしょうか。子どもたちの空想遊びの、「うそこに親が死んだ」状況は、子どもたちの隠れた心を現わしているように思えるのです。
 私の絵本に親不在の場面が多いのは、そんなところに原因があるのです。
***
 『いもうとのにゅういん』の原稿を書きあげて間もなく、私たち一家は夫の転勤で、結婚以来初めての引っ越しをし、その先で、思いがけなく私が発病、入院となってしまいました。三世代家族の中にいた三人の娘たちには、まさに降ってわいた劇的な物語の始まりだったに違いありません。
 天地がひっくり返っても、活字を眺めている限り気がつきそうもなかった長女も、てきぱきと(かどうかは怪しいにしても)買物をし、洗濯物を干し、ごくカンタンな料理は作ったようですし、次女はその資質を遺憾なく発揮し、姉を叱咤し妹を指揮し、家内をまとめたようですし、甘えることしか知らなかった三女も「もう六才だからガマンする」ことを覚えたようですし、そして問題児の長男も…(長男はいないのでありました)。
「大きな損には小さな得がつきもの」だったのか、小さな損に大きな得がついたのか――。
 子どもや夫の変わりようを見るにつけ、そう感じたものでしたが、あれはやはり私たち家族の“うそこの時”だったようなのです。
 いったん退院し、私に体力が付いてくるにしたがって、フィルムを逆に回すようにもとの状況にもどっているのですから。いくらかは“うそこの時”の痕跡を残しながら。
 幸せというのは、そんなものなのかもしれません。
「うそこにおかあさんが死んじゃったことね」
 私が病院のベッドに縛りつけられていた間は、絶対にしなかったらしい空想遊びを、子どもたちはまたくったくなく始めるようになりました。
 でも、子どもたちは知らないのです。
「うそこに子どもがいないことね」
「うん、生まれていないことね」 
ひとりお喋りを囁きながら、空想遊びをする大人もいるのだということを……。

基本情報

カテゴリ
月刊誌
ページ数
32ページ
サイズ
26×19cm
初版年月日
1983年02月01日
シリーズ
こどものとも
ISBN
テーマ

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