福音館書店

あやちゃんのうまれたひ

こどものとも|1984年12月号

あやちゃんはもうすぐ6才の誕生日。お母さんはあやちゃんが生まれた時のことを話してくれます。生まれる予定の日が過ぎて、お父さんもおばあちゃんもおじいちゃんも待ちきれなくなっていた、ある寒い寒い晩のこと、お腹の中で赤ちゃんの生まれる気配がして、お母さんは病院に向かい、あやちゃんを産んだのです。赤ちゃん誕生をめぐる家族の期待、喜び、感動を、しみじみと温かく描きます。

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赤ちゃん誕生 浜田 桂子

出産の予定日はとうに過ぎているのに、何のきざしもない毎日。自分のものとはとうてい思えない大きなおなかをかかえて、私はフーフー言うばかりでした。何もかも準備は整っているのに、いったいどうしたのでしょう。気の早い友だちからは、「おめでとう! 男の子? 女の子?」と電話がかかってきます。もしかしたら、永久にこの姿のままなのではないかと、そんなことをほんとうに思ってみたり……。でも、うまくしたもので、やがて赤ちゃんはちゃんと生まれてくるのです。分娩(ぶんべん)台の上で、初めてわが子と対面した時の、深い幸福な感情は忘れることができません。これは、苦しい出産をのりこえたお母さんに与えられる、特権なのでしょう。
それにしても、生まれたばかりの赤ちゃんは、何と小さいのでしょう。小さいながら、だれがこんなにきちんとつくりあげてくれたのかと、そう思わずにはいられない手、足の指。その指先のひとつひとつについている小さな爪は、さくら貝より透きとおっています。その手足をバタバタと、赤ちゃんはじつによく動かします。生まれてきたんだよ、ここにいるんだよと、自分の存在を証明するためにでしょうか。そしてまた赤ちゃんは、眠ってしまうとほんとうに静かです。あまりの静けさにハッとして、ちゃんと呼吸しているかどうかを確かめたりすることもしばしばです。
私もそうであったように、どのお母さんもきっと朝から晩まで、赤ちゃんの顔を見つめ続けるのではないでしょうか。逆に、赤ちゃんのぬれぬれとした漆黒の瞳にじっと見いられると、うれしさとともにたじろぎを覚えます。この小さな命の、限りない重さを確認させられる一瞬だからでしょうか。
今、私の子どもたちは小学生になりました。直接手がかかることは少なくなり、幼いころの、おんぶにだっこのような大変さはなくなりました。そのぶん、いつも子どもの気持ちをしっかりと見つめている目が、必要となってきました。飛びまわっている子どもたちの後ろ姿に、ペタンペタンとおぼつかない足どりで歩いていたころの小さな丸い背中が、時折ふっと重なり、流れた時間にあらためて驚かされます。
幼い命は、本来、自ら成長していく力に満ち満ちているものだと、つくづく思います。どの命も阻まれることなく、どうか持てる力いっぱいに伸びていってほしいと、願わずにはいられません。 
ところで私は、この絵本をつくっている間、“あやちゃん”の家族とは毎日机の上で顔を合わせていたものですから、すっかり親しくなってしまいました。おじいちゃんやおばあちゃん、パパやママといっしょに、赤ちゃんの誕生を待ちわびながら、絵を描きすすめました。雪の場面を描く少し前、東京には十回以上も雪が降りました。春を待つ気持ちとともに、ようやく赤ちゃんが無事に生まれ、私もおばあちゃんと同じように、パチンと手をたたきたい、うれしい気持ちでした。なにしろこの赤ちゃんは、私の息子と同じ体重で、そのうえ私の娘と同じ名前なのですもの!

基本情報

カテゴリ
月刊誌
ページ数
32ページ
サイズ
26×19cm
初版年月日
1984年12月01日
シリーズ
こどものとも
ISBN
テーマ

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