飛行機の窓から 小風さち
永年住み慣れた英国を、後にする日のことでした。私はなかなか飛び立たない飛行機の窓から、ぼんやりと外を眺めていました。決してぼんやりした気持ちでいたわけではなかったのです。ただ、そうする以外なにも出来なかったのです。
飛行機の窓は楕円形で、二重になっていました。窓の外側には、水滴が付いていました。雨の日ではなかったので、きっと機体に付いていた朝露か何かだったのでしょう。
飛行機は滑走路へと向かいはじめました。ガタガタとにぶい揺れ方をして速いのか遅いのかわからないスピードで進みます。すぐ下を、青々とした草が流れ過ぎていきました。
私はその草の内のいく種類かを知っていました。名前も、摘む時の感触も、茎を噛んだ時の苦さまで私は知っていました。その苦さが春と夏では違う事も。その感触が秋と冬では違う事も。四季を巡り、そして巡り、幾度も幾度も、私はこの草たちと、この国の大気を呼吸し、この国の大地に心を寄せ、この国の友と肩を合わせて過ごしてきました。
私は誰にも見送られませんでした。この国の友は、誰一人、決して私にさよならを言おうとしませんでしたから……。
私は、草に見送られました。
私を乗せた飛行機は、滑走路の脇で離陸の順番を待っていました。そう、私がちいさなプロペラ機を見かけたのは、その時です。プロペラ機は、離陸待ちの大きなジェット機がずらりと居並ぶ中、プルプルパタパタとはずかし気もなく、大胆にもたった一人で、滑走路の真ん中に進み出たではありませんか。彼は、飛ぶ気でいるのです。全く信じられないような光景でした。私が見ていますと、プロペラ機はそれから一つ二つ深呼吸をしたようでした。それから、御覧のとおりの真っ赤な顔をして、空へ翔び発っていったのです。
それが、それからの私を何より勇気づけてくれた、この「ちいさいプロペラ機」です。