虫はかわいい 秋山あゆ子
日常のあらゆる道具の中に、昔の人はおもしろいデザインを施しました。中でも私は、主に江戸時代に発達した小さな工芸品、きせるやかんざし、根付けや印籠などが大好きです。どれも手のひらに乗るようなものばかり、わずか数センチの中に植物や動物の姿が細工され、美しく、どこかユーモラスで、そのかわいらしさには本当に感動します。それで、ある時ふと、虫も自然の工芸品みたいだなあ、と思いました。一見気持ちの悪い虫もいるけれど、どの虫も美しくかわいくユーモラスな部分を持っていると思うのです。だからこそ昔の人は、その姿を愛し、身近なものに取り入れていったのではないでしょうか。
私は高校生の時、初めて歌舞伎を見て、あまりのかっこよさにすっかりしびれてしまい、それ以来、日本の昔のものに興味を持つようになりました。近頃は、建築や衣装、生活道具など、人々の身の回りにあったものを見るのが好きです。どの時代のものでも、その装飾やデザインには、自然をモチーフにしたものが驚くほど多く、日本人の自然に対する並々ならぬこだわりと愛情を感じることができます。そうそう、虫のデザインの豊富さは、もしかして世界一かもしれません。ムカデやクモのデザインだってありますし、背中一面に巨大カマキリを描いた着物なんてものもあるんです。
私は、虫のふしぎな生活や習性をお話にしたくて、漫画を描くようになったのですが、でも実は、ただ虫の絵を描いていれば幸せ、というところもあり、着物を着た虫や、日本家屋に住んでいる虫などを描いている時が一番幸せです。ですから今回、江戸のような町に暮らすクモの親分や、虫たちを思い切り自由に描くことができて、本当に幸せでした。