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おでかけの楽しみは…… 筒井頼子
明日は遠足――という日の夜のことを、私はしばしば思いだします。
まくらもとに、お菓子や果物をつめた、ま新しいリュックがあって、電気は、なぜかいつもよりキラキラ光っていて、私は暖かい毛布の中にいて、母はミシンを踏んでいる……。
カタカタ鳴るミシンが縫いだすのは、いつもの母の内職のパンツではなくて、明日、はいて行く、私のスカート。
私は何度目かのおやすみなさいを言って、布団に入ったばかりなのに、また、考え始めている――もう、何もやることはないのかしら、本当に?――
布団に入っては、リュックの点検に起きだし、それが度重なるうちに、持って行くはずの刷り物を見失って大騒ぎし、母にお茶を運ぼうと起きだしては、お茶をこぼし、自分に子守歌を歌えば、だんだんに声が高くなり、なぜか何度もトイレに起きだしたくなる……。
その度に、母にたしなめられては、布団にもぐり込むのですが、しかる母の声にすら感じていた、あの幸せな気分!
また、ある日――だれかが何かをなくし、だれかが何かを捜し、だれかが走り回り、だれかが怒鳴り、だれかが泣き……五人の子どもたちが、それぞれに大騒ぎを演じていたのは、珍しく父がいて、家族そろってでかけることになった日のこと。最後には、両親の口げんかなども始まり、計画はお流れかと、ハラハラした気分の中で、いざ出発! となった時のうれしさ!
今、ふと思うのです。
あの想像を超えたあわただしさ、騒々しさは、幕があく前の楽屋裏のそれにも似て、おでかけの楽しみは、半分近く、その楽屋裏の熱気がかもしだす、ワクワク、ハラハラ、ドキドキにこそあったのかもしれない……。
娘たちが大まじめで手をだせばだすほど、ことがややこしく、面倒になるのですが、でかける前の娘たちの大騒ぎを、時に怒鳴り散らしながら、私は幸せな気持でながめます。
それは幼い日の、私の姿でもあるのです。
小さい人たちがこの絵本で、おでかけ前のワクワクした気分を、楽しんでくれますように。
基本情報
- カテゴリ
- 月刊誌
- ページ数
- 24ページ
- サイズ
- 21×20cm
- 初版年月日
- 1980年10月01日
- シリーズ
- こどものとも年少版
- ISBN
- ー
- テーマ
- ー
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