福音館書店

こどものとも年少版43号

おでかけのまえに

こどものとも年少版|1980年10月号

日曜日、ピクニックに出かける前のお母さんとお父さんは準備におおわらわ。小さいあやこもお手伝いしようとしますが、失敗ばかり……。お出かけ前のはずむ心を、子どもの気持ちに寄り添ってていねいに描きます。

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おでかけの楽しみは…… 筒井頼子
 
 明日は遠足――という日の夜のことを、私はしばしば思いだします。
 まくらもとに、お菓子や果物をつめた、ま新しいリュックがあって、電気は、なぜかいつもよりキラキラ光っていて、私は暖かい毛布の中にいて、母はミシンを踏んでいる……。
 カタカタ鳴るミシンが縫いだすのは、いつもの母の内職のパンツではなくて、明日、はいて行く、私のスカート。
 私は何度目かのおやすみなさいを言って、布団に入ったばかりなのに、また、考え始めている――もう、何もやることはないのかしら、本当に?――
 布団に入っては、リュックの点検に起きだし、それが度重なるうちに、持って行くはずの刷り物を見失って大騒ぎし、母にお茶を運ぼうと起きだしては、お茶をこぼし、自分に子守歌を歌えば、だんだんに声が高くなり、なぜか何度もトイレに起きだしたくなる……。
 その度に、母にたしなめられては、布団にもぐり込むのですが、しかる母の声にすら感じていた、あの幸せな気分!
 また、ある日――だれかが何かをなくし、だれかが何かを捜し、だれかが走り回り、だれかが怒鳴り、だれかが泣き……五人の子どもたちが、それぞれに大騒ぎを演じていたのは、珍しく父がいて、家族そろってでかけることになった日のこと。最後には、両親の口げんかなども始まり、計画はお流れかと、ハラハラした気分の中で、いざ出発! となった時のうれしさ!
 今、ふと思うのです。
 あの想像を超えたあわただしさ、騒々しさは、幕があく前の楽屋裏のそれにも似て、おでかけの楽しみは、半分近く、その楽屋裏の熱気がかもしだす、ワクワク、ハラハラ、ドキドキにこそあったのかもしれない……。
 娘たちが大まじめで手をだせばだすほど、ことがややこしく、面倒になるのですが、でかける前の娘たちの大騒ぎを、時に怒鳴り散らしながら、私は幸せな気持でながめます。
 それは幼い日の、私の姿でもあるのです。
 小さい人たちがこの絵本で、おでかけ前のワクワクした気分を、楽しんでくれますように。

(1980年)

基本情報

カテゴリ
月刊誌
ページ数
24ページ
サイズ
21×20cm
初版年月日
1980年10月01日
ISBN
テーマ

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