福音館書店

こどものとも年少版74号

かぶさんとんだ

こどものとも年少版|1983年5月号

天気のいいある日、赤カブさんが台所から空へ飛び出しました。白カブさんも続き、てるてるぼうずさんもついてきて……。奇想天外な発想、現代的なデザイン感覚とユーモアにあふれた絵本。

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かぶさんのこと 五味太郎
 
 高級ワイン・グラスだとか、洒落た飾り物などを造るガラス製品の制作工房に、ちょっとした用があって、用はちょっとしたことだからすぐに済ませてしまってから、ガラス吹きの職人のわきで、その魔法のような作業をうっとりとして見ていました。
 細長い筒の先端に真赤に溶けた飴のようなガラスの塊をからみつかせて、その細長い筒の棒ごとくるくると回しながら、やおら筒の口から、はじめは重々しく、やがて飴がふっとふくらんだら今度はごく軽やかに息を吹き続けると、赤い塊は嘘のように透きとおって、それはまったくの魔法であり、球の肩のあたりから細い首がゆっくりと引き出されて、水差しか花壜のようなその全貌が現われはじめてくると、ぼくとしてはなんだか拍手でもしたい気持になってしまいました。もちろん拍手は我慢しましたが、職人があるところまで吹き終って、残りの息をふうっと外に吐き出したのを見て、おもわず、
――いや、いや、たいしたもんだ。
などと、ぼくは言ってしまいました。もちろんそれは本心ではありますが、実は職人の作業を見つめながら、ぼくも同じような息遣いをしていたものだから、最後の余った息をやっぱり吐き出さねばならず、そのついでにしゃべってしまったわけです。職人はじろっとぼくのことをにらみましたが何も言わず、相変らずゆっくりと細長い棒を回しながら、たぶん冷却用のであろう収納釜の方へ歩いてゆきました。でも何も言わなかったのは手の先に神経質なガラス細工があったからなので、手ぶらでもどってきた職人は、少しからかった目付きになって、
――どう、ひとつやってみるかい。
などとぼくに言うのです。仕事が一段落したこともあったのでしょうが、なにしろぼくは言われるままに、生まれてはじめてのガラス吹きにいどむことになりました。とは言え、工芸デザインとか造型理論などを一応学んだぼくのことですから、ま、作品に対するビジョンといったことはそれなりにあって、その実践に及んだわけですが、ま、つまり、うもすもふもなく、ガラスはいっこうふくらまず、 、半時ほどの格闘の末に、飴が塊のまま糸を引きながら、ぼたっと作業台の上に落ちました。頭のとがったおまんじゅうみたいな作品のまえで、
――かぶさんです。
とぼくは言いました。すると職人が、
――いや、いや、たいしたもんだ。
と言いました。

(1983年)

基本情報

カテゴリ
月刊誌
ページ数
24ページ
サイズ
21×20cm
初版年月日
1983年05月01日
ISBN
テーマ

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