あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|なかのひろたかさん『かめくんのさんぽ』

​​​​​​​今回とりあげるのは、4月の新刊『かめくんのさんぽ』。あっ、とお気付きの方もいらっしゃることでしょう。 そう、本作は昨年、誕生から50年を迎えたロングセラー絵本『ぞうくんのさんぽ』のシリーズ4作目です。エッセイでは、作者のなかのひろたかさんが50年前を振り返り、『ぞうくんのさんぽ』誕生秘話を語ってくださいました。

50年歩きつづけた『ぞうくんのさんぽ』

なかのひろたか


『ぞうくんのさんぽ』で思い出すのは、「こどものとも」の編集長だった松居さんと、はじめて会ったときのことだね。松居さん(*1)は『100まんびきのねこ(*2)』を見せてくれてね。「なかのさん、この絵本はアメリカで50年読まれています。日本にはまだ、50年読まれる絵本はありません」と言うんだ。50年……これから50年後まで読まれる、というのがどういうことなのか、そのときの僕にはぴんと来ませんでした。
松居さんに会ったのは、朝倉摂さん(*3)の紹介がきっかけ。通っていた桑沢デザイン研究所(*4)の課題で絵本を作ったら、「絵本をやりたいなら、いい出版社があるよ」って、福音館を教えてくれたんだ。とはいえ、当時どういう約束をしたのか忘れたけれど、いざ!と思って行ってみたら松居さんはいなくてね。かわりにぼくを迎えてくれたのは犬で(笑)。そう、当時の福音館は会社というよりふつうの民家みたいなところで、犬も飼ってたりして、「妙なところに来ちゃったなあ」と思ったもんだよ。
とりあえず原稿をひとつ預けて帰ったら、その夜、松居さんからうちに電話がかかってきたんだ。「原稿おもしろかったです。うちで出します」って。それが最初の絵本『ちょうちんあんこう(*5)』。そのあと、今度はちゃんと松居さんに会ったら、先の『100まんびきのねこ』を見せてくれたってわけ。それが僕と福音館との付き合いのはじまりでした。
その後、「よし2作目を出すぞ」って新しい原稿を持って、また松居さんに会いに行ったんだけど、ふたつ持ってきたうちの自信がある方を見せたら、松居さんがいい顔をしないんだね。それでこっちはしょげちゃって、もうひとつの原稿は見せる気力もない。そしたら松居さんが、「そっちの包みは何ですか」と言うんだ。それで仕方なく見せたら、じっと読んでから、今度は水口さん(*6)を呼んで読ませるんだ。それで、
「どうだ」
「おもしろいですね」
「だろう」
で、決まり。それが『ぞうくんのさんぽ』(*7)。あのとき「見せろ」と言われてなかったら、「ぞうくん」は生まれてなかったですね。
それから月日が経って……去年のある日、福音館から「今年で『ぞうくんのさんぽ』は50年になります」って聞かされて、ああ、そうかと。あのとき松居さんに「50年読まれる絵本」と言われて、ほんとうにそれができたんだな、ってちょっと感慨深かったですね。 
ひょんなことから、36年ぶりの続編『ぞうくんのあめふりさんぽ』を出し、さらに『ぞうくんのおおかぜさんぽ』、そして今回の『かめくんのさんぽ』まで生まれたけれど、いやあ、ぞうくんはよくぞ50年も散歩を続けてくれたものだ、と思います。

*1:松居直。月刊絵本「こどものとも」初代編集長。現福音館書店相談役。
*2:アメリカの絵本作家ワンダ・ガアグが1928年に発表した絵本。
*3:舞台美術家、画家。
    挿絵の仕事に『三月ひなのつき』(福音館書店)など。
*4:デザイナー桑澤洋子によって1954年に設立されたデザイン専門の学校。
*5:「こどものとも」1966年9月号。深海に住むちょうちんあんこうが
    月に会いに行くストーリー。
*6:水口健。1958年に福音館書店に入社し、絵本の編集などに従事。
   文を手がけた絵本作品に『かいたくちのみゆきちゃん』(福音館書店)など。
*7:「こどものとも」1968年6月号。


なかのひろたか(中野弘隆)
1942年、青森県生まれ。桑沢デザイン研究所リビングデザイン科卒業。アニメーション・スタジオ、デザイン会社勤務を経て、現在は絵本の創作に専心。作品は「ぞうくんのさんぽ」シリーズのほかに、『なきむしおばけ』、『およぐ』、『3じのおちゃにきてください』、『ゆうちゃんと めんどくさいサイ』、『ゲーとピー』、『カユイ カユイ』(以上、福音館書店)など多数。

2019.04.03

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