あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|さとう あやさん『こぶたのプーちゃん』

今回ご紹介するのは、2014年の月刊絵本刊行時に子どもたちの支持を集め、ハードカバー化が決定した絵本『こぶたのプーちゃん』。好奇心いっぱいで、どろんこになったり、綿毛だらけになったりして、元気に駆け回るこぶたのプーちゃんと、そんなプーちゃんを大らかに受け止めるお母さんを描いた温かい一冊です。あのねエッセイでは、作品の絵を手掛けたさとうあやさんが、絵本の魅力や絵に込めた思いについて語ってくださいました。

私とプーちゃん

さとう あや


「こぶたのプーちゃん」の物語を初めて読んだとき、なんて無邪気で元気なこぶたさんだろうと、プーちゃんのイメージがすぐに浮かんできました。

絵本にするにあたって、編集者さんが「さとうさんの好きなように描いてください」と言って下さったので、こぶたの写真絵本を見たり、動物園に行ってこぶたを探しスケッチをしながら、プーちゃんができていきました。プーちゃんは、ぬかるみにもぴょーんと入ってごろごろ、干し草にもぴょーんととびこみごろんごろん。元気で好奇心旺盛なプーちゃんは、いつも楽しそうです。小さなプーちゃんにとって、どろんこやほし草の香り、たんぽぽの綿毛の感覚、そして目に映るもの全てが新鮮な体験。その生き生きとした様子を絵本に表せたらいいな、と思いました。

その頃、作者の本田さんには小さな息子さんがいらっしゃるとお聞きしました。プーちゃんに似たお子さんかしらと勝手に想像していましたが、うちにも9歳の息子がいたので、幼かった頃は枯れ葉にごろごろしたり、斜面によじ登って転がって落ちたり、泥んこになって遊んだりと、プーちゃんはまるで息子そのものに見えました。お話を読む度に、楽しくキラキラした小さな子どもの身近な感覚が伝わって来るので本田さんは凄いなぁと思いました。

作家さんの物語の絵を描くときは、自分のお話を描く時とは違い、作家さんの想像するキャラクターや世界はどんなだろう、と、ふと考える時があります。私の絵は、とてもそんな風に考えてるようには見えないかもしれませんが、後から見返すと、色々とこの時は試行錯誤していたなと思う時があります。

プーちゃんの時は、ラフスケッチの方が、本描きよりも時間がかかった記憶がありますが、年少版の絵本を描くのは初めてのことで、わかりやすく、シンプルに表現するのも嬉しくて、プーちゃんが元気に動き出し、勢いよく仕上げていったように思います。

それでも、難しかったのは、お母さんが出てくる場面です。豚のお母さんはとても大きいので、画面の中に大きなお母さんをどんな風に入れられるか、小さなこぶたのプーちゃんとの対比や、大きなやさしいお母さんに会えてほっとしてる嬉しそうなプーちゃんを表せたらと、何回も描き直して仕上げていきました。無事に絵本が出来上がった時の事はよく覚えています。 

その後、2016年に、プーちゃんの続編「へっちゃらプーちゃん」を雑誌「母の友」で短い童話として掲載することになり、小さなカットを2点描いたのですが、元気な楽しいプーちゃんが、私の中でまた動き出しました。

でも、ちょうど同じ頃、作者の本田いづみさんが、惜しくも突然帰らぬ人となりました。あまりにも急な知らせに、一瞬耳を疑いました。一度もお会いできず、一言も直接お礼を伝えられませんでした。ご家族の方々や、まだ幼かったお子さんたちのことを思うと、辛くやりきれない思いでした。


今年の初め、編集者さんから、月刊誌として出た『こぶたのプーちゃん』の単行本化が決まりました、とご連絡をいただきました。プーちゃんの絵本には、本田さんの、子どもたちへのあたたかな眼差しや、喜びがたくさん散りばめられているように思います。プーちゃんが、子どもたちにたくさんの光や幸せを運ぶこぶたちゃんとなって、長く愛されることを祈っています。
 



さとう あや
千葉県に生まれる。桑沢デザイン研究所卒業。その後、セツ・モードセミナーに学ぶ。絵本に『ぴりかちゃんのブーツ』『どんぐりえんおばけ』(「こどものとも」2005年8月号)、『アルマジロくんとカメくん』(「同」2008年3月号)、さし絵に『ネコのタクシー』『バレエをおどりたかった馬』『おばけのおーちゃん』『ケイゾウさんは四月がきらいです。』(すべて福音館書店)などがある。

2020.06.03

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