イベントレポート

junaidaさん×祖父江慎さんトーク「〜終わりのない旅の〜」第1回

日本語の「の」という言葉のもつふしぎを描いた絵本『の』。その刊行を記念し、昨年2019年12月に東京・代官山蔦屋書店で行われた、作者のjunaidaさんとアートディレクションを担当した祖父江慎さんとデザイン担当の藤井遥さん(コズフィッシュ)とのトークイベントの様子を、全3回でお届けいたします。

著者名のない本

祖父江 僕はjunaidaさんって、最初、外国の人だと思ってたんですよ。藤井さんに聞くまで気づかなかったの。

junaida よく言われます。金髪の女の人が描いてると思っていたと言われたこともあります。

祖父江 僕もそう思ってたから、おどろき、ももの木、さんしょの木でした(笑)。

junaida 僕、アイダジュンなんです。それで「jun」と「aida」をつなげているんです。

祖父江 アイダ(aida)・ジュン(jun)をひっくり返して、間のアキをなくしてじゅないだ(つないだ)んですね(笑)。『の』の前のjunaidaさんの絵本『Michi』を見たときに、表紙に著者名が入っていないのも驚きました。

junaida 今回の『の』も表紙に著者名がないんですが、初めて祖父江さんに会ったときに、僕が『の』の表紙に著者名は入れなくていいですって言ったら、祖父江さんが「それ言われたのは2人目です」っておっしゃってたじゃないですか。その1人目が……。

祖父江 赤塚不二夫さんね。

junaida それ聞いたときは、やった! と思いました。

祖父江 赤塚さんと『天才バカボン』の文庫のシリーズをつくったときに、「これ、要らないから」って。「えっ、要りますよ」って言ったら、「だって俺の名前は誰も知らなくてもバカボンは知っているから。バカボンが入ってればいい」と。『の』は、出版社名も入っていなくて、表紙には、絵がドン、タイトルの「の」という字がポン、みたいな。謎すぎ(笑)。


junaida 僕、このデザインを見たときに本当にびっくりしました。「の」という文字が入るだけだっていうのはわかっていたんですけど、この、中の本文とほぼ同じサイズで入ってくるとは思っていなくて。しかも、この場所に、このサイズで入っているのもちゃんと理由があるんですよね。

祖父江 すごく正確に言うと、ちょっとだけ大きいんです。

藤井 本文と表紙のタイトルとで同じ書体を使っているのですが、表紙の「の」の字だけ、本文より1Q(0.25mm)大きくしてます。

junaida 読んだ方はわかると思うんですけど――。

祖父江 まだ読んでない方は、わーっと耳をふさいでてください!

junaida (笑)。この絵本、「わたしの…」で始まる本文のテキストの最後が「…わたし」で終わるんです。初めは僕、「…わたし。」って、最後を「。」で終わらせていたんですよ。でも祖父江さんが、この「。」取っちゃおうって言ったんです。最後の「。」を取って、表紙には本文と同じサイズの「の」を入れているから、最後の「…わたし」が、一周まわって表紙の「の」につながってくるように読める。この本の世界がぐるぐる回っていくというのが、デザインで表現されていて、たまげました。

祖父江 やってみたら意外にかっこよかったよね。それで今日は、本ができあがるまでを、最初から振り返っていくんだよね。

世界的にも珍しい「の」

junaida はい。最初は「の」っていう日本語の言葉が、外国語でそれを一言で置き換えられるものがない、というようなことを、ある本を読んでるときに知りまして。そこから、「の」って何だろうと、自分なりに頭の中でいろいろ考えていき、すごくいろんな使い方をしているなっていうことに気がついて、それを「○○の○○の…」ってつなげていくと、これは本になるかもしれない。そう思って始めたんです。

祖父江 「の」って世界的にも珍しいんですね。言葉同士をつなぐ言葉で、それ自体の意味は曖昧ですもんね。

junaida そう、すごく曖昧さがあるんですよ。英語にすると、使い方によって、ofとかonとかinとかintoとか変えなきゃいけないけど、日本語は「の」だけでいろいろな使い方のバリエーションがある。

祖父江 面白いですね。本のタイトルって、作者が力を入れれば入れるほど、「の」が入ることがあるんですよ。「○○の○○」とかって、このつなぎ方の意味が曖昧なんで、謎をかけるような、どんなふうにでも読めるような、いいつなぎになるんですね。ただ、あんまり「○○の○○」っていうタイトルばっかりくるから、その昔「『の』禁止にして~」と言ったこともあります(笑)。書店が「○○の○○」って本だらけになっちゃうと思って。本棚の背表紙を見ると、きっと半分くらいは「の」が入ってるんじゃないかな。でも、「の」だけなのはこれだけだよね。思いきりがすごい。

junaida 寝る前とかに、頭の中で「私の…何たらの…」ってごにょごにょ考えてたんです。みなさんも、眠れない夜に自分の頭の中で適当に「の」で文章を作ってみてください。すぐ眠くなって、夢の中にフッて入っていけます(笑)。だから最初は、考えてもすぐ眠くなって全然はかどらなくて……。でも編集者とやりとりしながら、頑張ってある程度、形ができました。そのあと鉛筆でパッパッとラフを描いていって、絵と文章をどう見せるかもいろいろ試しました。最終的には今のように、右ページに文章、左ページに絵、となったんですが、ラフの段階では文章と絵が同じページにあったときもありました。しかも横書きの文字で。

祖父江 ということは、ページ数も半分?

junaida はい。ただ、文章と絵を同じページにしちゃうと、全体のリズムがよすぎて、どんどんページをめくって絵を流して見ていってしまうんです。そうじゃなくて、文章と一緒に一つの絵をじっくり見てもらってから、次のページへいってほしいねという話をしたり。

祖父江 文章よりも先に絵を見ちゃうんですね。そうすると、こっちの文章はそんなに読まなくていいかとか、つい思っちゃいそう。

藤井 それは悲しいですよね。

junaida そうなんですよ。パッパッと絵で見ていく、2コマ漫画みたいな感じのリズムになっちゃったので、これは違うなと。そういう試行錯誤を多分、2ヵ月くらい、もうちょっとやってましたかね。

「なんかわかんないけど面白い」


祖父江 『の』(2019年11月刊行)は、いつから作り始めたんですか?

junaida 今年(2019年)の2月か3月くらいですね。

祖父江 スピーディーですねえ。

junaida 前作の『Michi』で僕、出し切っちゃったなと思ったんです。まとまった作品を作っていると、その描き終わりぐらいには、いつも次のアイデアみたいなものが出るんですけど、『Michi』のときはこれに全部集中していたので、もう2、3年は何も出ないって思ってたんですよ。

祖父江 『Michi』が出たのはいつでしたっけ。

junaida 去年(2018年)です。

祖父江 見た方もいらっしゃると思うんですが、これ描くのは相当時間がかかったんじゃないですか。100年ぐらいかかってる気が(笑)。大変だったでしょう。

junaida もう二度と同じことはできないです。腕が取れると思うんで。ぽろっといきそうになりました。

祖父江 でも、この『Michi』も去年一年間で描いたんですよね。本当に信じられない。ちょっとだけ見せる?

junaida はい。道で全部つながっていく絵本です。


祖父江 自由だよね。どの道を進んでいってもいい。表1(表紙)も表4(裏表紙)もなくて、前からも後ろからも、どっちからも読めるようになってる。

junaida 本って知らない間にいろいろな決まりごとがあるじゃないですか。でも、表現したいものによっては、その決まり事自体を変えたほうがいいときもあると思うんです。『Michi』は、そのとき関わってくれたみなさんが、「それはいいね」って一緒に面白がってくれたおかげで本が出せました。今回の『の』も、根底に流れる表現したいものは同じなんです。それは「なんか面白い」っていうこと。僕、「なんかわかんないけど面白いな」っていうのが、一番面白いんじゃないかなと思ってて。

祖父江 それは、本の基本ですよね。「なんかわかんない」から、何度見ても新鮮ですもんね。

junaida そうなんです、正解はこれだっていうのがないものを作っていきたいなと。『の』の話に戻りますが、ラフを仕上げて、「よし、これでいこう」というものができたので、まずは依頼のために編集者にコズフィッシュの事務所へ行ってもらって、初めて祖父江さんにラフを見てもらいました。

藤井 最初に見たのは、絵と文章が右ページと左ページに分かれた、ほぼ完成形でしたね。

junaida 祖父江さんたちがラフを読んでいる様子を、編集者が動画に撮って送ってくれたんです。僕ら以外で、初めての読者として祖父江さんに読んでもらったんですが、祖父江さんは「何とかの何とかの」って、楽しそうに音読して読んでくれてたんですね。読みながら「あれ、この言葉は絵のこっちかな、あっ、ここにいた!」とか、読者がこういう読み方をしてくれたらいいなって思っていた通りに読んでもらってて。

祖父江 まんまと(笑)。最初は、わかりやすいんですけどね。だんだん、どこにあるんだ、どこにあるんだ、と探し出すんですよね。

junaida 動画でその様子を見たときに、いけるかもしれないって小さな手応えみたいなことを感じました。


第2回につづく)

2020.12.21

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