あのねエッセイ

特別エッセイ|山中伸弥さん「好奇心を育て、科学を楽しもう」〜かがくのとも50周年に寄せて

月刊かがく絵本「かがくのとも」50周年を記念して、京都大学iPS細胞研究所 所長・教授 の山中伸弥さんに特別エッセイを寄せていただきました。子どもの頃の好奇心が、科学者としての原点だと語る山中さん。身の回りのものごとに興味津々な、科学の入り口に立っている子どもたちへの応援メッセージです。

好奇心を育て、科学を楽しもう

山中伸弥


私は理科が大好きな子どもでした。一生懸命勉強したというよりは、昔から身の回りにある機械のしくみを調べることが好きで、そのうちに実験や観察も大好きになり、理科が得意になりました。

例えば、こんなことがありました。小さいころ、時計がどうして規則正しく動いているのかが不思議で、家中の時計を分解して遊んでいました。始める前は自力で元に戻せるだろうと思っているのですが、いざやってみると部品が足りなくなったりめちゃくちゃな形になったりして、よく怒られました。しかし、時計がカチコチ動いているのを見ると、やっぱりそのしくみを調べずにはいられなくて、同じことを何度も繰り返しました。この、身の回りにある不思議なことを放っておけないというのが、私の科学者としての原点のように思います。

科学は、世の中にある物質や生きもの、現象などのしくみを解き明かしていく学問です。現在のこれほど便利な世の中を見ると、科学はとても進んでいて、分からないことなどないようにも思えますが、実は世界にはまだまだわかっていないことがたくさんあります。科学者は、それらの謎を放っておけず、日々謎を解き明かすために努力している人々です。
分からないことを追求しているのですから、当然、予想外のこともたくさん起こります。私が研究を始めたばかりのころ、ある薬の実験をしていたことがありました。その薬は血圧を上げる効果があると予想していたのですが、試しに実験動物に注射してみると、逆にどんどん血圧が下がっていきました。予想が外れてがっかり……とはならず、私の心は不思議なことに出会えた喜びでいっぱいでした。予想通りの結果が得られなかったということは、実験としては失敗といえるかもしれません。しかし、その失敗をも謎を解き明かすチャンスとして楽しむことができるのが、科学の醍醐味だと思います。

科学は、不思議なことにワクワクし、謎を解き明かさずにはいられないという好奇心をもち続けた人々に、発見の喜びを与えてくれます。謎を解いていく過程では、もちろん予想通りにいかないこともありますが、それを自然からのヒントだと考えることで、科学はますます楽しくなります。これから大きく成長していく子どもたちにはぜひ、子どもの頃の好奇心をすくすくと育てて、科学を楽しんでもらえればと思います。



山中伸弥(やまなか・しんや)
京都大学iPS細胞研究所 所長・教授。医学博士。米国留学後、大阪市立大学医学部薬理学教室助手、奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター教授、京都大学再生医科学研究所教授などを経て、2010年4月より現職。2012年には成熟した細胞を多能性を持つ細胞へと初期化できることを発見した理由により、ジョン・ガードン博士とノーベル生理学・医学賞を共同受賞。iPS細胞技術の医療応用を実現するための革新的研究の推進に取り組んでいる。

2019.04.05

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