あのねエッセイ

特別エッセイ|森 花子さん「よい子への道を歩こう」〜『よい子れんしゅう帳』刊行によせて〜

よい子への道を歩こう

森 花子

 小学生のとき、図書館でみつけた子ども向け読み物雑誌「おおきなポケット」。そこに連載されていたのが、おかべりかさんの『よい子への道』でした。これは絵本? 読み物? それともマンガ……? 親しみのある小学校が舞台となって、よい子になるために「やってはいけないこと」をユーモアたっぷりに紹介してくれる本作には、子どもながらに衝撃を受け、涙がでるほど笑い転げて読みました。

 すぐにでもこの気持ちを伝えたくなった私は、おかべさん宛にお手紙を書きました。そして母にてつだってもらい、おおきなポケットの編集部へ送ったのです。自分でもびっくりするくらいの行動力!それくらい小学生の私の心を打ち抜いた作品でした。

 おかべさんは、たとえ遅くなることがあっても、ファンレターには必ずお返事をくださる方でした。とはいえ、当時の私はそんなことを知るはずもなく、自宅のポストにおかべさんご本人からのお手紙が入っていたときは、うれしさ以上にとっても驚いたことを覚えています。

 ファンレターから始まった文通は、おかべさんが亡くなる2017年まで約20数年続きました。学校で友だちとうまくいかないとき、手紙で悩みを打ち明けると、私やその友だちの気持ちをおかべさんなりに考えてくださって、便せん5枚にもなるお返事をくださったこともありました。

 おかべさんは、私にとってふしぎな存在です。親でもない、兄弟でもない、おばあちゃんでも、親戚のお姉さんでも、学校の先生でもない。けれど、何か困ったり悩んだりするとき、きまって私はおかべさんに手紙を書きました。おかべさんの言葉は、背中をやさしくさすってくれているかのように、私を安心させ、エールを送り続けてくれていたのです。

 あるときのおかべさんからのお手紙に、「優しくあるということが、実は一番強いことなのだと思っています」という一文がありました。その言葉は私にとって印象的で、心のすみっこにずっと残っていたのですが、今回この原稿を書きながらはっとしました。おかべさんが子どもたちに伝えたかった“よい子になるための道”・・・それは、「優しくあるため」に、「楽しむこと(いっぱい笑う)と考えること(いっぱい困ったり怒ったり泣いたり)をやめないでいてね。」ということだったのかもしれない。少なくとも、私は『よい子への道』で、その方法をたくさん教わった気がします。

 楽しくて、おかしくて、おなかが痛くなるまで笑えるような時間を、おかべさんは『よい子への道』にぎゅっとつめこんで、小学生だった私に届けてくれました。今度は私が、小学生のみんなへ届ける番です。

 疲れて元気がでなくなったとき、つまらなくて石ころを蹴とばしたい気持ちになったとき、『よい子への道』そして『よい子れんしゅう帳』を開いて、おなかが痛くなるまで、笑ってほしいです。

森 花子(もり・はなこ)
横浜市生まれ。2016年6月に、青森県八戸市に移住。市営書店・八戸ブックセンターで、ギャラリーやイベントの企画おこなっている。イラストレーターとしても活動中。

2020.05.22

  • Twitter
  • Facebook
  • Line

記事の中で紹介した本

関連記事