あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|樋勝朋巳さん『パーマさんはパーマやさん』

クネクネさん、フワフワさん、パーマさん、個性的なキャラクターたちそれぞれが、好きなことを仕事にして、時に楽しく、時に失敗しながら暮らす姿をやさしく描いたシリーズ「クネクネさんのえほん」。第1作『きょうはマラカスのひ』から10年目を迎える今年、パーマさんの職業がついに明らかになる、シリーズ第5作『パーマさんはパーマやさん』が刊行になりました。シリーズに込めた思いを、作者の樋勝朋巳さんに綴っていただきました。

小さな暮らしはつづく。

樋勝朋巳


 『きょうはマラカスのひ』の刊行から10年が経ちました。

これまでクネクネさん、フワフワさん、パーマさんという、ちょっと風変わりなメンバーとともに絵本を作ってきました。新刊は『パーマさんはパーマやさん』。パーマさんは自転車にパーマセットをのせて、いろいろなところへパーマをかけに行くことを仕事としています。あいかわらず涙もろいクネクネさんや、心配しがちなカエルちゃん、フランス語教室のフランソア先生、そして今回の主人公であるパーマさんの日常を絵本にしました。パーマさんは、あっけらかんとしていて、細かいことは気にしません。慌てることもなく、どっしりとした存在です。それぞれみんな性格は違うけれど、寄り添い、寄り添われ、日々を大切に暮らしています。私の絵本制作も、編集者の方に寄り添っていただきながら、じっくり進めることができました。アドバイスになんども膝を打ち、自分一人では見つけられないドアが開き、おもしろさがパワーアップしていく過程はとても刺激的なものでした。編集者の方と二人三脚で作る絵本の仕事は本当に楽しく幸せな時間です。

遠い昔、私は大学を卒業後、仕事としてグラフィックデザイナーを目指しました。でも2年で挫折。それから銅版画の世界へ進みました。思いを自由に描き続ける日々は、不安でありつつも、生きている手応えのようなものを感じたことを覚えています。その時から作品にモチーフとして小さく登場していた、クネクネさん、フワフワさん、パーマさん。はじめて絵本を作ることになった時、ずっとモチーフだった彼らに言葉を持たせ、動きをつけて描くことを決めました。長い付き合いである彼らの日常を想像し、膨らませ、存在を確かなものにしていくことは、とても楽しい作業です。彼らに子供たちへの安心と応援を託すことにしました。

日常や暮らしというものが、楽しく穏やかに流れていくことは何よりも幸せなことではないでしょうか。日々の中の滑稽なやり取りや、愛おしい出来事、チャーミングな人やもの。

それらから受け取る幸福感や安心は、人生を助けてくれているように思うのです。子供というのは元気いっぱい太陽のように明るいけれど、心の中ではあれこれ心配したり、気を遣い、バランスをとり、色々なことを鋭く感じとる繊細な生き物です。私も子供の頃からいつもどこかで、安心のようなものを探していました。人や、動物や、自然や、ものなど、近くにはそうした存在の優しさや美しさがあります。それをみつけることができれば、不条理に押しつぶされることなく、自分を保つことができるのではないでしょうか。

そんなことを思いながら暮らしの中の小さな力を絵本にしています。日々はなかなかヘンテコなものだけれど、なんだかおもしろいなあと、ちょっぴり感じてもらえたら嬉しいです。

樋勝朋巳(ひかつともみ)
1969年、長野県生まれ。多摩美術大学卒業後、デザイン会社勤務を経て銅版画の制作をはじめる。以降、銅版画家として活動。1998年、ボローニャ国際絵本原画展入選。「クネクネさんのえほん」に『きょうはマラカスのひ』(第19回日本絵本賞大賞受賞)『フワフワさんは けいとやさん』『きょうはパーティーのひ』『たいこ』(すべて福音館書店)がある。ほかに『ペロのおしごと』『おさるちゃんのおしごと』(ともに小学館)『わたしのかみがた』『あのこ』(ともにブロンズ新社)『チキカングー』(こぐま社)『こっちとあっち』(谷川俊太郎・文 / クレヨンハウス)など。埼玉県在住。

クネクネさんのえほん 特設ページ

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登場人物の紹介や、シリーズの魅力についてまとめた特設ページはこちら

2023.11.02

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