『ぐりとぐら』60周年記念連載「ぐりとぐらとわたし」

60周年記念連載 「ぐりとぐらとわたし」第3回:株式会社こどものとも 清水大志さん

『ぐりとぐら』刊行60周年を記念し、日頃「ぐりとぐら」と関わって下さっている方へのインタビューをお届けする連載「ぐりとぐらとわたし」。第3回、最後にお邪魔したのは、福音館書店が刊行する絵本を、販売代理店として各地の園へお届けしている「株式会社こどものとも」。日々、園の先生たちと触れ合い、子どもたちに絵本を届け続けている清水大志さんに、『ぐりとぐら』への思いを伺いました。

――まずは清水さんの普段のお仕事について、少し教えて頂いてもよろしいでしょうか
 
清水さん)福音館書店が刊行する月刊絵本「こどものとも」などの月刊誌をはじめとした絵本を、各地の園に営業してお買い上げ頂く、という販売代理店事業を行っています。全国にそれぞれのエリアで活動するこういった代理店があるのですが、弊社「株式会社こどものとも」は主に関東圏を中心に事業を行っています。
とはいえ、ただ単純にこちらが買ってほしい絵本をご紹介するだけでは、園の先生にも子どもたちにも届きません。絵本にどんな魅力があるのか、どんなふうに保育の現場で活用頂くと、園での時間と子どもたちの心を豊かにしてくれるのか。そういった保育に関するノウハウや情報などもご紹介し、先生たちと一緒に考えながら絵本を届けていくのが私たちの仕事です。

――先生方を介して、ではありますが、園に通う多くの子どもたちに絵本を届けるお仕事になるわけですね。

そうですね。我々の手から、先生の手に渡って、そしてそれが子どもたちへと渡って……と、手から手へ絵本を橋渡ししている仕事といえるかもしれないですね。時には素敵なお手紙を園の子どもさんから頂くこともあり、そういったときにはとてもやりがいを感じますし、宝物として今も大切にとっていますよ。とはいえ橋渡し、ですのであくまで主役は園の先生と子どもたち。ぼくらはサポート役で目立ちすぎないように気をつけなくてはいけない、とも思っていますが。



――園の先生から、紹介した絵本の感想やエピソードなどを頂くことは多いのでしょうか。

勿論、あります。一昨年刊行された『バケツのこおり』(ちいさなかがくのとも2022年1月号)という絵本がありますが、ある園では実際にバケツにお水を張って氷を作ることをやってみたそうなんです。ところが気温の関係かうまくいかず。でも、気になってご自分のお家でチャレンジしたお子さんがいらっしゃったんですね。そうしたら、とてもうまくいったそうで、その様子を写真で見せて頂いたことがあります。そのお子さんは、とっても嬉しそうな飛び切りの笑顔で写っていて。園で出会った絵本を通して、それが豊かな実体験となっている様子をみると、自分が橋渡しをできたことの嬉しさをやはり感じますね。

――素敵なエピソードをありがとうございます。続いて、『ぐりとぐら』について伺っていきたいと思います。今年は60周年というアニバーサリーイヤーでした。

気づけばもう60周年、という感覚ですね。本当にいつも、園の先生にも子どもたちにも親しまれ続けていますから、私も初めてお伺いする園に、自己紹介も兼ねてご紹介するのはやはり『ぐりとぐら』です。福音館さんにとってもそうでしょうが、やはり弊社にとっても「顔」ですよね。そんな風に常に身近に接し続けているからこそ、気づけば60周年、という思いでした。

――何か清水さんのお仕事の中で、『ぐりとぐら』にまつわるエピソードはありますか?

個人的に忘れられないのが一つありまして……。もう10数年前かな、ある園にお邪魔したときにぐりとぐらの絵本を持っていたんですね。そうしたら女の子が一人おもむろに、「おじさんはぐりなの?ぐらなの?どっちなの?」って聞いてきたんです。面喰らいましてね。子どもって、時々何て答えていいか分からない、大人と見ている世界が違うからこその質問をしてくると思うんです。垣間見たくても垣間見れない、子どもながらの世界にいるがゆえのことば、みたいな。そういうことを言われたことがありました。

――なんと答えられたんですか?

とまどいつつも私は「どちらかというと、おじさんは、ぐら、かなぁ」と答えました。そしたらその子は間髪入れずに「間違ってるよ!」と言うんです。私は思わず「なんで?」と聞きましたら、その子は「だって、ぐりのほうが帽子が大きいでしょ。だからわたしがぐり。おじさんがぐら」と言ってバーッと走っていってしまいました(笑)。
慌てて会社に戻ってから本をよく読み返したら、確かにぐりの帽子の方が少し大きいんですよね。あんな小さい子なのに、そんな風に細かなところまであの絵本を見ているんだなぁ、と思いましたし、大人からするとそこに理屈はないように感じるわけですけども、子どもたちの独特な考え方や捉え方を目の当たりにして、とてもびっくりした思い出があります。

――清水さんから見て、『ぐりとぐら』がそれほど子どもたちの心に入り込むその魅力の源泉はどこにあると思いますか。

色々な要素があると思うんですけど、強いて言えば、私は「音」「ことばのリズム」かなと思いますね。どうしてかというと……我が家の4人の子どものうち、『ぐりとぐら』が大好きな一番下の子が、肘の関節のあたりを触るときにいつも「ぐりっぐらっぐりっぐらっ」と言っていましてね(笑)。

――とっても可愛いですね(笑)

確かに触るとぐりぐりぐらぐらしてるんですよね(笑)。その時から、『ぐりとぐら』は単なる名前・タイトルじゃなくて、それ自体に音や響き、ことばの力を持っているのかな、と気づきました。そういう心地よさというか、魅力がお話全体に詰まっているんじゃないでしょうか。

――最後に一言メッセージをいただけますか

『ぐりとぐら』だけに限った話ではないのですが、周年に限らず、いつどんな形で出会っても楽しんで頂ける絵本ですので、これからも作品の良さを伝えられたらと思っています。子どもたちが、まだ小さな頃に、自身にとって本当に夢中になれる絵本に出会えるかどうかは、非常に重要なことです。その出会いを手助けするのが、私達大人の仕事だと思っていますので、これからも良質な絵本との出会いを子どもたちに届けられるよう、私たちも『ぐりとぐら』に負けずに、途切れることなく頑張っていきたいなと思います。

2023.12.20

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