第3回 絵本の中の幸せ
ことばが少しずつふえ、お父さんやお母さんとおしゃべりができるようになると、子どもは、絵本に出てくるものが何をしているのか、それからどうなるのか、お話の筋に興味を持つようになる。
そんな子どもたちを長い間喜ばせてきたのが、「うさこちゃん」のシリーズだ。子どもにとって身近なことを題材にしたお話が多く、鮮やかな色彩、大胆にデザインされた絵、そして歯切れのよい美しい日本語で語られている、魅力的な絵本である。その中で、まず紹介したいのは『うさこちゃんとゆうえんち』。
遊園地といっても、機械じかけの大きな乗り物が登場するわけではない。近所の公園にあるような遊具で、うさこちゃんが遊ぶ話である。うさこちゃんはブランコに立って乗ったり、つり輪にぶらさがって揺らしたり元気いっぱい。ブランコなどで遊んだ経験はどの子にもあるのだろう。身を乗り出して見る子が多い。鉄棒でくるりくるり回って、母さんに「じょうずねえ」とほめられ、父さんとはいっしょにシーソーに乗って、うさこちゃんは大喜び。「とうさん、かあさん、みてえ!」と大声で呼ぶうさこちゃんの声が、聞こえてくるようだ。
短い話だが、うさこちゃんのしていることや気持ちが、一つ一つ丁寧に語られていくので、子どもはうさこちゃんの身になって、お話を体験していくことができる。飽きずに読んでもらいたがるようすを見ていると、幼い子どもたちが求めているのは、この絵本に描かれているような幸せではないかと思う。
もう一冊『うさこちゃんのたんじょうび』も、子どもたちの憧れがいっぱい詰まった絵本だ。
ある朝、うさこちゃんは早起きして、体中を丁寧に洗い、大好きな花もようの服を着る。なぜなら、その日はうさこちゃんの誕生日だから。父さん、母さんに「おめでとう!」と祝福され、自分の椅子は服のもようと同じ花で飾られていて、すばらしい一日が始まる。まず、プレゼントが三つも! 午後はお友だちとパーティー。夜には、おじいさんとおばあさんがやってきて、みんなでごちそうをいただく。二人からのプレゼントは、かわいいぬいぐるみのくま。そして寝る時間がきてベッドに入るとき、うさこちゃんはくまさんを抱いて言う。「かあさん ほんとに ありがとう。たのしかった!」
ページを繰るごとに、嬉しいこと、楽しいことが次々に現れ、子どもたちは目を離すことができない。中でも、プレゼントの一つ「ほんとに きれる はさみ」に、たくさんの子が心を奪われるようだ。「大きくなったから、ほんとに切れるはさみをもらったんだね」と納得する子、はさみの刃の部分(の絵)を恐る恐るなでる子などさまざまだが、みんな満足そうだ。誕生日は子どもたちにとって、一つ大きくなる特別な日であることを実感する。
子どもたちはもちろん、大人だって、こんな幸せな誕生日に憧れるのではないだろうか?
紹介した本
『うさこちゃんとゆうえんち』『うさこちゃんのたんじょうび』
ぶん/え ディック・ブルーナ やく いしい ももこ (ともに福音館書店)
山口雅子(やまぐち まさこ)
1946年神奈川県生まれ。上智大学外国語学部卒業。松岡享子主宰の家庭文庫で子どもの本にかかわる。東京子ども図書館設立と同時に、職員として参加。退職後は、子どもと本の橋渡し役として、絵本や語りの講座で講師を務める。著書に『絵本の記憶、子どもの気持ち』(福音館書店)がある。
2025.05.01