日々の絵本と読みもの

人間の視覚の不思議『とんでいく』

『とんでいく』

これは絵本の1ページ。ここに1羽の鳥のシルエットがあります。じっと見てみてください。何の鳥に見えますか?

では、何の鳥のお話しか絵本をめくってみましょう。おや、この本は表紙が前にも後ろにもありますね。
どちらからめくろうか……。


 

なんとこの絵本、前から読むのと、後ろから読むのとで、2つのお話を楽しめることができるのです。そんな不思議な絵本『とんでいく』をご紹介します。

緑色で「とんでいく」と書かれた表紙からページをめくり、緑色の文字で書かれたお話を読むと、スピード自慢のタカが主人公。湖からとんがりやまのてっぺん目指して飛んで、野を越え、町を越え、飛行機と競走して、ついにタカはとんがりやまに到着。さて、今度はタカのお話を最後まで読んだところで、こんどはページを逆にめくって茶色の文字のお話を読んでみると……

さっきまでタカだったはずの鳥が、ガンに大変身!
同じ絵なのに、仲間とはぐれたガンの子が、とんがりやまから湖の住処に帰っていく、全く別のお話が始まります。
さっきまでの「おれは そらの おうさまだ」と強気で飛んでいたタカとは、真逆な性格のガンの子が、心細さを抱えながら、懸命に家を目指して飛んでいきます。



ひとつの鳥のシルエットが、右を向けばタカに、左を向けばガンに見える。『とんでいく』は人間の視覚の不思議、錯視を利用したしかけ絵本です。

シルエットは、2つのお話の展開のどちらにも合うように、場面ごとに様々なポーズをとっています。
シルエットだけの描写ながら、どの絵も右を向けばタカ、左を向けばガンの子に見えるように描かれており、鳥の造形を知り尽くした画家・岡崎立さんの卓越した表現力が感じられます。

お話を知ると絵の見え方が変わってしまう……。そんな心地よい驚きを親子で、何度も味わってもらいたい作品です。

担当・H
最近は毎日散歩をしています。空を見ると『とんでいく』を思いだし、それにしてもふしぎだなぁと思います。

2020.04.15

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