作者のことば

作者のことば 乾栄里子さん『ヴィンセントさんのしごと』

人気絵本『バルバルさん』の作者、乾栄里子さんと西村敏雄さんコンビが贈る新刊『ヴィンセントさんのしごと』。じつは本作は、お二人が『バルバルさん』よりも前に描いていた“幻の名作”。世界中の子どもたちからくる手紙を読んで、問題を解決する仕事に淡々と取り組む“ジェントルマンな”ヴィンセントさんがとっても魅力の作品です。初出「こどものとも」2019年10月号の折り込み付録に寄せられた、乾さんのエッセイを再録してお届けいたします(ちなみに、作者お二人はご夫婦で、文中の「夫」は絵を描かれた西村敏雄さんです)。

おじさんのこと

乾栄里子

「ヴィンセントさんのしごと」を書いたのは、もう20年も前のことです。絵本のことを何もわからないまま、只々一生懸命お話を書いたことを覚えています。

思い返せば、私は子供の頃からおじさんに面白さを感じていたような気がします。

特に仕事をしているおじさんは魅力的で、近所のクリーニング屋さんがアイロンをかける姿をかぶりつきで眺めたり、今川焼きを焼くおじさんの技をじっくり鑑賞するのが楽しみでした。

テレビでもアイドルそっちのけで脇役のおじさんばかりを応援していました。

かっこいいおじさんよりも、ちょっととぼけた味のあるおじさんが好みです。

そういえば同い年の夫も今では立派なおじさんになっています。本当だったらLOVEが止まらないはずなのですが……長年身近にいたのでうっかり見落としていました。せっかくおじさんと暮らしているのですから、もっと楽しまなければもったいない。ということで、おじさん観察をしてみることにしました。

観察を始めて2週間。ダジャレの数は6。その内面白いのは1。まあまあな成績です。そして、おじさんは心優しいという発見がありました。我が家のおじさんは、家の中でクモを見つけると必ず窓の外へそっと逃がしてやっています。そういえばヴィンセントさんも仕事の途中で小鳥にパンをあげていました。「いいぞ! おじさん」

ヴィンセントさんの頑張りを、みなさんにも楽しんでいただけたら嬉しく思います。
 

(「こどものとも」2019年10月号 折り込みふろくより)

乾栄里子(いぬいえりこ) 1964年、東京都生まれ。東京造形大学デザイン科卒業後、インドへ留学。バナスタリ大学でテキスタイルを学ぶ。絵本に『バルバルさん』(福音館書店)『ふくろうのダルトリー』(ブロンズ新社)『ぽんこちゃん ポン!』(偕成社)『つられたらたべちゃうぞおばけ』(童心社)『ちびうそくん』(PHP研究所)『おわんわん』(ひさかたチャイルド)『おしりだよ』(教育画劇)などがある。東京都在住。

2024.02.28

  • Twitter
  • Facebook
  • Line

記事の中で紹介した本

関連記事